【第8回】 モンテディオ山形が描く新スタジアムの姿 ~ MPF長岡隆泰氏 独占インタビュー(前編)
【第8回】 モンテディオ山形が描く新スタジアムの姿 ~ MPF長岡隆泰氏 独占インタビュー(前編)

【第8回】 モンテディオ山形が描く新スタジアムの姿 ~ MPF長岡隆泰氏 独占インタビュー(前編)

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(取材と文、写真・筑紫直樹)

新スタジアムの鳥瞰イメージ
新スタジアムの鳥瞰イメージ (画像:Montedio Football Park)

広島金沢長崎と新たに3か所のフットボールスタジアムが誕生した2024年は、日本サッカー界にとってエポックメイキングな年であった。だが、Jリーグ全60クラブの本拠地を見渡すと、ようやく過半数が専用スタジアムでプレーできるようになったばかりで、文字通りまだ道半ばといえる。

今後も川崎、秋田、富山、いわき、福島などの新スタジアム計画が進んでいくが、次に完成すると注目されているのが、2028年開業予定のモンテディオ山形(J2)の新スタジアムだ。

J2第8節ジュビロ磐田戦を翌日に控えた2025年4月4日、THE STADIUM HUBは、穏やかな春の暖かさに包まれた山形県天童市内の県総合運動公園にて、クラブの新スタジアム建設事業を推進する株式会社モンテディオフットボールパーク(以下、「MFP」)の長岡隆泰取締役に話を伺った。

長岡氏は、株式会社モンテディオ山形の指定管理部長であり、クラブの現在のホームスタジアムであるNDソフトスタジアム山形を含む、山形県総合運動公園全体の指定管理業務の責任者でもある。クラブが、新スタジアムに思い描く未来のビジョンについて、余すことなく語ってもらった。

―昨年の2024年8月8日、モンテディオ山形の公式サイトで新スタジアム建設の発注先とイメージ画像が公表されました。あれから8か月が経過しましたが、現在の進捗について教えてください。

長岡氏:昨年8月8日は、(クラブと発注先の清水建設株式会社による)合意書の締結というかたちで発表させていただきました。契約というより、おおよその建設費であったりとか、我々の想いであったりとか、そういったものを清水建設様にしっかりとお伝えしたうえで、今後プロジェクトを一緒に進めていきましょうという合意をしたということです。

現在は次のフェーズ、すなわち基本設計をしている最中です。今は隔週で設計の定例ミーティングをやっており、ちょうど昨日で15回目を迎え、アウトライン(概要、概観)、鉄骨量、工事区分などが決まり、概算の見積もりが提出されました。

―8月の発表時で建設費用がおよそ158億円とされていましたが、現時点でもそこは変わっていないという理解でよろしいでしょうか。また、基本設計の段階ということですが、工期にも変更はなさそうですか。

長岡氏:そうですね。基本的に総工費はそこから大きく上振れることもなく推移しています。ただ、工期については、やはり行政などとの様々な調整事が増えていったということがあり、当初と比べると着工の時期までが3カ月ほど遅れているのですが、新スタジアムの完成・開場・(2028年8月上旬の)リーグ開幕の日程はもう決まっているので、29か月と設定された工期の中で、どのように間に合わせていくかという調整をしているところです。

―今年2月には鹿児島県の新総合体育館の整備事業費が、基本構想時の倍となる499億円と推計されるなど、建設業界の人件費や資材費の高騰に大きく影響を受けているプロジェクトもあります。

長岡氏:もちろん、我々の新スタジアムは民設民営ということで、やはり資金調達が一番大きいポイントにはなってくると思っています。これが、当初の計画よりも大きく上振れることになると、融資にも影響したり、そもそもの建設計画自体が頓挫してしまう可能性があるため、我々としては、ベースのところから大きく変わらないということを目標に、様々な調整をしています。なお、建設資金は、特別目的会社(SPC)であるMFPへの出資金、銀行融資、ファンドからの投資、企業版ふるさと納税、第二世代交付金といった行政による支援金、そして募金やふるさと納税といった個人寄付などによって調達する計画です。

また、清水建設様の努力ももちろんある中、外観を無駄に大きくせず、VECD(=バリューエンジニアリング・コストダウンの略。建築・建設業において、コストを下げながらも価値のある設計を目指す考え方)で何をどのように縮小すれば、一番コストパフォーマンスがいいサイズ感を作れるかといったところを、これまでの15回の設計ミーティングの中で調整してきた次第です。

―最適なサイズ感ということですが、現時点でどれくらいの収容人数と座席数を想定されていますか。

長岡氏:現時点では、収容人数は1万7,000人くらいをベースにして調整をしているところです。座席数は1万5,000席をちょっと超えるくらいです。

御社ウェブサイトで公開されているパース画像を見ると、金沢(ゴーゴーカレースタジアム)のような馬蹄型というかU字型に近い躯体の形状になっていますが、1か所だけ屋根がない大型ビジョン直下の小さいスタンドがアウェー席になるイメージでしょうか。

長岡氏:屋根がないのは南スタンドになりますが、昨今のホスピタリティの観点から、アウェー席だけ屋根がないということが問題視されることもあります。そのため、2,000席弱となる予定の南スタンドは、ホーム自由席という立て付けになると思っています。

実は、(現ホームスタジアムの)NDソフトスタジアム山形でも同等の取り組みを昨シーズンの最後の2試合から始めており、新スタジアムにおいては、金沢のように(バックスタンドである)東スタンドの屋根下の南部分3ブロックをアウェー席として設定する予定です。

―なるほど。自由席とすることで、例えば、大雨の日には、そこに行かない選択肢もあるわけですね。

長岡氏:そうです。あとは、スタジアムの南側には広場を設定していますが、その広場と連動した作り方にできればいいな、というのが今の思いです。お子さま連れのお客様のようなファミリー的な使い方になるのか、または企画エリアになるのか、運用のかたちに関してはこれからの調整になりますが、そういうイメージを持ちながらの設定になってくるとは思っています。

ただ、あくまでも屋根伏せの下に1万5,000席というのがイメージとしてありますので、単純に広場を設けるためにU字型にして南側を常に開放しているというわけではなく、最初の第一段階では南側を開放している状態を作り、将来対応として、そこに5,000席の屋根伏せのスタンドを作っていくというのが今後の計画です。最終的には、屋根伏せで四方が囲まれたような状態のパースを出せると思っています。

―公開されているパースを見ると、VIPボックスがスタンドの中層ではなく、ピッチから近い低層階に設置されているなど、米国のメジャーリーグ・サッカー(MLS)の最近のスタジアムでよく見受けられる特徴があるのですが、欧州だけでなく、MLSのスタジアムの要素も取り入れられているのでしょうか。

長岡氏:はい、その通りです。今回、我々がベンチマークしたのは、サンノゼ(・アースクエイクス)のPayPalパークです。

今仰っていただいたように、日本でも最近建てられたスタジアムは、VIPが中層階や上層階からピッチを見下ろすというスタイルが定着していたのですが、ステータスの高い席というのは、あくまでもピッチに一番近い席であるべきだという考え方を米国などで学びました。それをどうやって具現化できるかというところで、今回の設計になっているといえます。ホスピタリティボックスは、ビジネスボックスという呼称で、ボックスの部屋が上のスタンド直下になっていて、ボックス用の座席に関しては、上層スタンドの最前列よりも前に出ています。

スタンド下層階のビジネスボックスの完成イメージ
スタンド下層階のビジネスボックスの完成イメージ (画像:Montedio Football Park)

―ビジネスボックスはメインスタンドの高級ホスピタリティエリアということで、バックスタンドにはないという理解でよろしいでしょうか。

長岡氏:はい、問題ありません。逆に言うと、メイン側は、上層階の先のところも含め、ほとんどが何らかのプレミアムシートとなっており、一般席は角部分とサイドスタンド、そしてバックスタンドに設置されます。

―では、ホームゴール裏となる北サイドスタンドについては、特にご留意された点などありましたか。

長岡氏:当初は(メインやバックのように)2層構造にして、下層階(1階)にパーティーシートのような企画席を設けるといった、色々な計画もあったのですが、サポーター団体等と弊社代表が話をする中で、最前列で大旗を振って、コールリーダーが今のスタイルで応援するという方法は崩したくないということ、それから、サポーターたちが2階層に行くというのは違うのではないか、という意見もあったので、ゴール裏のコアサポが集まるエリアは1層にして、ピッチの最前列に近いところに大旗を振れる席を作りました。

―今回、県有地である公園の駐車場スペースに新スタジアムを建設するということですが、公園利用者の声はどうでしょうか。

長岡氏:やはり既存公園の駐車場であるため、その利便性が下がることに対する懸念というのは、相当数あるのが正直なところです。新スタジアムの建設により、2,240台分の駐車スペースが不足することになるのですが、我々としては、誘致していただいた天童市と共に、その2,240台分のスペースを別途確保する方向で調整している状況です。

その一環として、『akippa(アキッパ)』という駐車場利用シェアリングサービスで、周辺の商業施設や工場などと連携する等、民間施設を活用する方法を検討しているほか、例えば、天童市役所や文化ホール、図書館のような公共施設の駐車場を臨時的な駐車場として利用させていただき、そこから無償のピストン輸送をしていただくということも協議しています。

―パーク&ライドのようなかたちも模索されているのですね。

長岡氏:はい、そのとおりです。

―新スタジアムが占有することになる2,240台分の駐車スペースというのは、公園の利用者が困ってしまうほどのロスになるものなのでしょうか。

長岡氏:そのようなハレーションは正直あります。(新スタジアムの建設予定地である県総合運動公園の南駐車場は)現在、およそ5,000台を駐車することができ、我々の方で誘導員等を活用することで、実際は6,000台弱くらいまでは停めることができる駐車場なのですが、そこが満車になることは我々のホームゲーム以外ではほぼありません。ですので、先ほど「利便性が下がる」とお伝えしたのも、駐車可能な台数が減ることで、我々のホームゲームの来場者の方々の利便性が下がるという意味合いが大きいと思っています。

ただ、一方で、我々のホームゲームがある日も公園内の体育館が閉館しているわけではありませんし、公園内を散策されたい方々が一定数いらっしゃるのもまた事実です。そういった方々からすれば、我々のホームゲームがなければ目的地に近い駐車場に停めたり、混雑のない状態で自由に停めることができるのに、という声はあります。ですので、新スタジアムによる影響はまったくないとか、モンテディオ山形の試合のお客様しか利用していない、ということではなく、それ以外の利用者の方々のお声を公園管理者として拾っていかなくてはならないと思っています。

新スタジアムの建設予定地である南駐車場
新スタジアムの建設予定地である南駐車場 (画像:Naoki Tsukushi/THE STADIUM HUB)

―お話を伺っていると、車社会というか、ファンやサポーター含め、車で来られる方々が多い印象ですが、アウェイサポーターの方々に対して、新スタジアムで新たに提供したい交通手段などはあるのでしょうか。

長岡氏:我々としては、自家用車での来場というものを限りなく減らしていきたいというのが共通の思いです。これは現在のNDソフトスタジアム山形でも一緒なのですが、現状、5,000台の駐車があると、試合後に最後の1台が出るまでの所要時間が90分ぐらいかかってしまっています。

そういった中で、勝った試合はいいのですが、あまり内容の良くない試合や負けてしまった試合の時は、そのフラストレーションがチーム側に向いてくることもあり、駐車場からなかなか出れないことに対するクレームのお電話だったりとか、お叱りのお電話だったりというのをいただくこともあります。

クラブとしては、試合後に気持ち良く帰路についていただくというのもホスピタリティの一環だと思っていますので、公共交通機関や他の来場方法を使っていただくことによって、車での来場をいかに縮減できるか、クラブがそのような施策を見出していくということも、大きな命題のひとつであると認識しています。ですので、モビリティも含めて色々なソリューションが発達していると思いますので、そういったものを自治体と協議しながら導入していきたいと考えているところです。

―将来的には、例えば、アプリベースのライドシェアで来場してもらうような選択肢も提供されたいということですね。

長岡氏:はい。未来構想も含めて、色々な事業者様と相談させていただいています。

―新スタジアムは民営ということですので、海外のスタジアムのように、VIPやパートナー企業のお客様に試合後も長く滞在してもらい、その中で飲食等の収益を増やしたり、退出の時間帯を分散することで渋滞を避けてもらうといった取り組みもしていく計画はあるのでしょうか。

長岡氏:はい。例えば、試合終了後には選手が登壇するイベントなどでコアなサポーターやファンの皆様に残っていただいたり、バス待ちのお客様にドリンクを販売したりするなど、早く帰られる方からゆっくり時間を過ごす方まで、試合終了後の90分という時間帯に様々な場外の催し物を行なうことで、帰路に就く時間の差を作ることを数年前からNDソフトスタジアム山形でも実施していますので、新スタジアムでも同様に実践できればと思っています。

子どもたちや家族連れに人気の縁日
子どもたちや家族連れに人気の縁日 (画像:Naoki Tsukushi/THE STADIUM HUB)

―新スタジアム開業に伴う経済波及効果や雇用機会の創出などについては、どのような調査結果になりましたでしょうか。

長岡氏:新スタジアム開業による経済波及効果と就業機会誘発数につきましては、天童市さんが日本経済研究所さんに依頼するかたちで実施され、経済波及効果が年間約24.3億円(現状と比較して+16.6億円)、そして就業機会誘発数は約295人(同+204人)という試算結果となりました。

―新スタジアム運用時の周辺道路の活用についてはいかがでしょうか。

長岡氏:新スタジアム完成後は、現在の駐車場運用とは異なる入退場の経路や進行方向となることが想定されることから、周辺道路については、渋滞緩和のための複線化を含めた協議を、天童市や地元警察署と実施しております。また、交通量調査等も今後実施されるものと理解しています。

後編はこちらから

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