編集者コラム第26回 ~ 二都物語 広島と金沢の新スタジアムが提示する未来図 ~ (広島篇 中章)
編集者コラム第26回 ~ 二都物語 広島と金沢の新スタジアムが提示する未来図 ~ (広島篇 中章)

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(取材と文、写真・筑紫直樹)

杮落し当日のメインスタンド

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西日本はそこまで寒くはないだろうと高を括って、前夜に薄着でお好み焼きを食べに行って首筋が冷えたのか、軽い頭痛と共に目覚めた杮(こけら)落し当日の朝。スタジアムの駐輪場は市民利用でいっぱいになるだろうと考え、ホテル近くのバス停から循環バスの『えきまちループ(右回り)』で紙屋町へ向かいました。案内員さんたちが示している順路に従い、前夜の南側ではなく、今度は東側から、整備中のスタジアムパークの建設現場を横目にエディオンピースウイング広島を目指します。

東側のスタジアムパークを通るアプローチ
東側のスタジアムパークを通るアプローチ

天気はまさに杮落し日和で、午前の優しい青空にスタジアムの白い翼が映えます。ペデストリアンデッキを上がりきると、スタジアムとパークを立体的に一望できる場所があり、多くの来場客が立ち止まって写真を撮っていました。

総工費286億円弱、そのうち個人による寄附が6億3,600万円超(令和6年1月31日時点)という、まさに日本全国から注目を集めたエディオンピースウイング広島。やはり青空の下で見ると、とにかく美しい翼(屋根)の雄姿が眩しいです。多くの方々の想いが詰まったサッカースタジアムが完成したことを、ひとりの寄附者としても誇らしく、そして嬉しい気持ちになります。

スタジアム2階のアウターコンコースに到着すると、まず目に入ってきたのがグッズショップへの大行列。前日に、来場客には翌朝朝8時から並んでもらうという情報をキャッチしていたので、大勢の来場を予想したものの、まさかこれほどまでとは。最後尾は南側のペデストリアンデッキ方面まで伸びていました。

グッズショップへと続く長蛇の列
グッズショップへと続く長蛇の列

まちなかスタジアムということもあり、自家用車ではなく、市電やバスといった公共交通、さらには近隣の市民には自転車での来場が推奨されているため、駐輪場の様子を確認してみると、やはり満車でした。多くの人が自転車来場している現状を嬉しく思う半面、スタジアムの駐輪場を利用できなかった来場客が近隣に違法駐輪してしまわないように、今後は駐輪台数を予測調整することも大事ですね。

スタジアム南側の駐輪場
スタジアム南側の駐輪場

新スタジアム開場の瞬間

すでにスタジアム南東のAゲートには開場の10時を前に多くの来場客が集まっており、入場の瞬間を今か今かと待っています。そして午前10時、入場と同時に感嘆の声がいたるところから聞こえてきます。

多くの来場客が集まったAゲート
多くの来場客が集まったAゲート
午前10時に開場。中には走って座席に向かう人も
午前10時に開場。中には走って座席に向かう人も

ちなみにこの日の来場者特典は、杮落としの記念チケットでした。昨シーズンで別れを告げた旧エディオンスタジアム(広島広域公園陸上競技場=現ホットスタッフフィールド広島)最終戦で配布された記念チケットとも統一感があり、ファン心をくすぐるデザインとなっています。杮落しの記念試合の相手も、旧エディスタ最終戦と同じくガンバ大阪。これも西日本の雄である両クラブのひとつの絆といえるでしょう。

来場者特典の記念チケット
来場者特典の記念チケット

角から入場すると、必然的に来場客が最初に目にするのは、ピッチを対角線に見るスタジアムの全貌となるため、コンコースの角部分が展望デッキの役割を果たしています。多くの若者たちが「すごい、すごい!」、「これはヤバい、これはマジでやばい!」で四方を見渡して写真を撮っている姿に筆者も安堵しました。

少子高齢化による人口減と経済の縮小は日本が抱える大きな問題です。先行きが不透明な社会において、これからの日本を背負わざるをえない若者たちが、少しでも生きることに希望を見出すことが必要不可欠です。この暗澹たる日本社会で、そのような「ドキドキ、わくわくする体験」を提供できるのは、非日常の興奮であり、それこそがスポーツやエンターテインメント、そしてその舞台となるスタジアムやアリーナの最大のポテンシャルなのです。

スポーツの世界、特に真剣試合では、よほどの事情がないかぎり予定調和はありません。勝ち、負け、引き分け、いずれにせよ予測はできても現実がその通りに帰結するかは、試合が終了するまでわかりません。そこにスリルやドラマといった興奮が発生します。

そして、エディオンピースウイング広島というスタジアムは、設計において左右(東西)どころか南北も非対称という非常に有機的なデザインになっています。各スタンドが独自の特徴による「尖った」主張をしつつも、広い平和の翼たる大屋根の下、手を取り合って調和しており、まさに豊かな多様性と協調性の在り方を象徴する舞台といえるでしょう。

左右上下非対称の有機的なスタンド設計

エディオンピースウイング広島のシートマップ。左右どころか上下も非対称(©Sanfrecce Hiroshima FC)
エディオンピースウイング広島のシートマップ。左右どころか上下も非対称(©Sanfrecce Hiroshima FC)
選手施設、VIPエリア、メディア施設といった特殊機能が集約されているメインスタンド
選手施設、VIPエリア、メディア施設といった特殊機能が集約されているメインスタンド
ホームゴール裏の「紫の壁」こと南スタンド
ホームゴール裏の「紫の壁」こと南スタンド
アウェーゴール裏の北スタンド
アウェーゴール裏の北スタンド
イベントスペースやグッズショップ、キッズスペースなどがあるバックスタンド
イベントスペースやグッズショップ、キッズスペースなどがあるバックスタンド

日本初となる常設センサリールーム(自閉症などの発達障害を持つ利用者のための観戦施設)や子どもが遊べるキッズスペース等も整備されており、現代に生きる人の多様な生き方を否定することなく、誰も取り残さないスタジアムを目指していることが伝わってきます。そして、このような尖った個性を持つスタジアムが、公設公営の市営施設として誕生したという事実もまた、日本における今後のスタジアム整備の在り方に大きな方向性を示すものです。

日本初の常設スタジアムセンサリールーム(©Sanfrecce Hiroshima FC)
日本初の常設スタジアムセンサリールーム(©Sanfrecce Hiroshima FC)
広々としたキッズスペース
広々としたキッズスペース

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