『ぺろり!スタグル旅』など数々の人気作を上梓する漫画家・能田達規(のうだ・たつき)先生は、スタジアムを楽しみ、グルメを味わう側の代表格とでも言うべき方。インタビュー2回目は、スタジアムとサポーターの関係性について話を聞いた。
(聞き手・有川久志 編集・夏目幸明)
1970年生まれ。愛媛県松山市出身。1989年、広島大学在学中に第1回ファミ通漫画大賞入賞。『おまかせ! ピース電器店』『ORANGE』『ぺろり!スタグル旅』などが代表作となる。愛媛FCのマスコット「オ~レくん」「たま媛ちゃん」「伊予柑太」をデザインした。
観客の「目を肥やして」いこう
―先生、せっかくですので、自分自身が食べて本当においしかったと思うスタジアムグルメを教えてほしいです。
能田:ビールが好きなのでおつまみ系になってしまいますが......例えば有名どころではFC岐阜(の本拠地、岐阜メモリアルセンター長良川競技場)の「飛騨牛の牛串※1」です。
あと、ファジアーノ岡山(の本拠地、シティライトスタジアム)のヨメナカセ※2という、ホルモンの硬いコリコリしたところです。あと、鹿児島ユナイテッドFCの本拠地(鹿児島県立鴨池陸上競技場)の鶏飯※3は美味しかったです。
また、ケーズデンキスタジアム水戸で、真夏の死ぬほど暑かった日に、ご飯に白魚をたくさんかけて水を入れ、氷を浮かべた食べ物を食べました。これも心に残るおいしさでしたね。
※1 「Jリーグスタジアムグルメイレブン」でベストイレブンにも選出されている
※2 ハツモトと呼ばれる、心臓付近にある太い血管壁
※3 奄美大島の郷土料理
―先生がスタジアムグルメをテーマに全国を巡ることにフォーカスした理由って、やっぱりおいしかったからですか?
能田:いえ、それはマンガ業界の都合です。グルメや恋愛など、本能に関わるコンテンツが読まれる傾向があって、僕の担当編集から提案があったんです。
でも書いてみると、地方のスタジアムの事情やクラブが頑張っている姿などスポーツの周辺にあるディテールを描くことができ、今は"僕に向いていたんだな"と感じています。同時に編集者も僕の嗜好を知っていたからこそこの提案をしてくれたのかな、と思います。
―先生はサッカー以外の競技も観に行きますか?
能田:先日、熊谷ラグビー場(埼玉県熊谷市)でラグビーワールドカップの試合を観てきましたよ。印象深かったのは、熊谷の小中学生が無料で招待されていたこと。
批判もあるのかもしれませんが、小中学生の頃にワールドカップの舞台を実際に観た経験は子供たちの大きな財産になると思います。
世界の舞台を観た経験は、将来、何かを魅せるビジネスをする時などにきっと活きますよね。
能田:行政の方がしっかり運営し、盛り上げたことも、行政の財産になると思います。その点、中国、四国地方の自治体はもう少し頑張ってほしいですね。
―なぜですか?
能田:実は日韓ワールドカップの時、広島は会場の候補になったんですが「屋根をつけられない」と断ってしまったんです。このあたりから「中国、四国地方でフットボールの世界大会を開催する」という発想自体がなくなって、ラグビーワールドカップでも中国、四国地方は無視されています。Jリーグ仕様のサッカー専用スタジアムも、中国、四国地方で鳥取にしかありません。
―たしかに。
能田:もしサッカーワールドカップが広島で開催されていれば、中国、四国にお住まいの方たちにとって、スタジアムでの観戦体験がもう少し身近になったと思います。現状、とくに四国ではプロスポーツを観戦し、盛り上がった経験がある方が少なく、特に世界的な試合は"テレビで見るのが当たり前"という距離感があるんです。この状態では、プロスポーツが盛り上がるのは難しいと感じます。
まず「サッカー専用スタジアムをつくったほうがいいですよ」と話しても伝わりません。専用スタジアムに行ったことがない方が多く、他チームのサポーターがそこでどれだけ盛り上がっているかわからないんです。
また、いいスタジアムをつくっても、人が集まるようになるまで時間がかかると思います。なぜなら、スタジアムで盛り上がった経験がなければ足も向かないからです。
―なるほど。いいスタジアムをつくるためには、観客の目が肥えていなければいけないんですね。
能田:ええ。もしすぐ近くの町に松本山雅FCのような(人口が少なくても、トップリーグにいない頃から盛り上がっている)チームがあれば、愛媛も「負けてなるものか!」と専用スタジアムを建てていたかもしれません。AC長野パルセイロの長野Uスタジアムがまさにそうですね。
だから私は、FC今治には大いに期待しているんです。今治に素晴らしいスタジアムを建ててもらって、愛媛県民がびっくりしてくれればいいな、と......。
お父さんが娘を誘えるスタジアムの条件
―前回、スタジアムグルメで印象に残った場所として、岡山と、有り難いことに鹿児島を挙げてくださいました。今回はグルメでなく、印象に残ったスタジアムを教えてほしいのですが?
能田:松本山雅FCのアルウィンです。屋根は無いのですが、観客の一体感がいい。AC長野パルセイロの長野Uスタジアムも、私が行った時はあまりお客さんが入っていなかったのですが、3千人台の観客数でもサポーターの声が反響してすごい迫力がありました。
ギラヴァンツ北九州のミクニワールドスタジアム北九州も、長野とつくりが似ていてコンコースが広く、そこからスタジアムのピッチが見えていいですね。
あとは大宮のNACK5スタジアムも好きです。私は愛媛FCの応援のためにアウェイ側のゴール裏に行くんですが、大宮は視界がよくて試合の様子がよく見えます。あと、大宮は駅からスタジアムに着くまでの通りに、いかにも、サッカースタジアムが近くにある雰囲気があっていいですね。しかも、通り道に氷川神社もあります。
スタジアムの価値はスタジアムだけで決まるものじゃないと思います。だからNACK5スタジアムは周辺の環境も含め好きなスタジアムです。またNACK5も日立台(日立柏サッカー場)も同じですが、駅から歩けることも重要なポイントです。徒歩約25分程度なら、ギリギリ歩けます。
―意外と歩いている間も楽しいものですよね。
能田:アウェーのスタジアムに行くと、私は鉄道も好きなので、スタジアムの最寄り駅がチームの応援をしているかどうかが一番気になります。その点でよかったのが蘇我駅(ジェフ千葉の本拠地、フクダ電子アリーナの最寄り駅)。
また、飛田給駅(FC東京と東京ヴェルディ1969のホームスタジアム・味の素スタジアムの最寄り駅)の、2チームがせめぎあっている感じも好きです。
―関東から離れると?
能田:鹿児島や琉球等、遠くのアウェイまで行くと、1~2泊して、その土地の料理や名物を食べてくるので、スタジアムの評価に街や文化が関わってきます(笑)。琉球では、ゴール裏の有名なサポーターが運営しているバーに行ってきました。楽しかったですよ。
新スタジアム予定地にも行きましたが、こちらは街中でよい場所でした。あと、公園に野良猫がいっぱいいて、猫好きとしてはテンションがあがりましたね。
―金沢や京都、秋田や鹿児島など、日本各地に新スタジアムの計画があります。観客の一人として、期待することは何ですか?
能田:単純に、アクセスの良さです。愛媛のように、スタジアムに行くのも街中へ戻ってくるのも一苦労するようだと、アウェーからきてくれた方が観光する体力、時間が残りません。地元を盛り上げるためにも、スタジアムはアクセスがいい場所につくるべきです。
私、実家に帰って愛媛FCの試合を見に行く時、よく娘を連れて行くんですが、彼女によく「1時間バスに乗るのが苦痛」と言われてしまいます。すると、お父さんとしても誘いづらくなってしまうんです。
あと、屋根はほしいですね。アウェイで雨に降られた時の絶望感はすごいですよ。湘南や横浜で雨が降って、帰りの電車の中で靴が濡れたまま、帰宅してやっと靴を脱いで、新聞紙を詰めている時に本当に悲しくなりましたから......。
漫画『ぺろり!スタグル旅』(ヒーローズコミックス)
◆内容紹介◆
サッカーとは旅とグルメのことである...!Nリーグ2部・千葉ユニティの熱烈な女子サポ2人、エリとハルのアウェイ遠征スタジアムグルメ漫遊記。
アウェイ遠征こそサポーターの醍醐味!まだ見ぬ地元のソウルフードを求めて、今週末も2人はスタジアムにいます──。読むとスタジアムに行きたくなる、サッカーグルメマンガ!
◆購入先◆
Amazon
THE STADIUM HUBの更新お知らせはこちらをフォロー
Twitter:@THESTADIUMHUB
Facebook:THE STADIUM HUB