【第3回】人気スタグル漫画の作者は、日本のスタジアムに何を見る? ― チームを強くする前に"やるべきこと"ってありますよ(3/3)
【第3回】人気スタグル漫画の作者は、日本のスタジアムに何を見る? ― チームを強くする前に"やるべきこと"ってありますよ(3/3)

【第3回】人気スタグル漫画の作者は、日本のスタジアムに何を見る? ― チームを強くする前に"やるべきこと"ってありますよ(3/3)

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『ぺろり!スタグル旅』など数々の人気作を上梓する漫画家・能田達規(のうだ・たつき)先生は、スタジアムを楽しみ、グルメを味わう側の代表格とでも言うべき方。インタビュー3回目は、スタジアムビジネスについても話を聞いた。
(聞き手・有川久志 編集・夏目幸明)

第2回はこちらから

能田達規氏
1970年生まれ。愛媛県松山市出身。1989年、広島大学在学中に第1回ファミ通漫画大賞入賞。『おまかせ! ピース電器店』『ORANGE』『ぺろり!スタグル旅』などが代表作となる。愛媛FCのマスコット「オ~レくん」「たま媛ちゃん」「伊予柑太」をデザインした。

著書にサインをいただいた
著書にサインをいただいた

子供が戻ってくるスタジアムに

―全国の様々なスタジアムを訪ね、"こうすればもっとスタジアムビジネスがうまくいくはずなのに"と思ったことはありますか?

能田:VIP席やラウンジ等、富裕層向けの設備、サービスを充実させてみてほしいですね。これがあれば、スタジアムは月に1~2回、地域の経済界の偉い方が一同に集まる地域の社交場になります。もちろん主宰者側も高額な料金をとれるでしょう。そして、このような稼ぎ方をするためにも、スタジアムは街なかのステータスを感じられる場所にあったほうがいいと思います。

しかし現状、日本のスタジアムにはこういうスペースがなく、つくるキャパもなく、国体で使われるスタジアムでもVIP席が10名程、という場合が多いようです。

―等々力球技場のメインスタンドにはそういう部屋がありますが、市が管理していて、なかなか貸してもらえないようです。

能田:やはり行政が施設をつくり運営すると、融通はきかなくなる傾向がありますね。ラグビーも、スポンサーにチケットを配布してしまって、本当に観たい人が観られなかったようですし......。

その点、V・ファーレン長崎には期待しています。ジャパネットたかたの創業者である髙田明さんが経営に加わってから非常に盛り上がっていて、ジャパネットが新スタジアムを建てると聞いています。どんなスタジアムができるか楽しみです。

―スタジアムグルメは、今後、どんなビジネスになっていくと思われますか?

能田:今後、地方のスタジアムはいかにファミリー層を取り込んで行けるかがビジネスの成否をわけるはずです。そんななか、スタジアムグルメが充実していれば、家族連れは来やすくなりますよね。

―やはり、今後はファミリー層だと思われますか?

能田:ええ。首都圏の場合は周辺人口が多いので、コアなファンだけでもスポーツビジネスが成り立つと思います。また、鹿島アントラーズのように強ければ、少し頑張ってでも応援に来る方は多いと思います。

でも地方の事情は異なるはずです。まず、若者を集めようとしても若者がいない。かつ経営規模が大きい都会のチームにはなかなか勝てない。そんな状況で、スタジアムでビールだけ飲んだり、声をからすコアなファンだけを想定していてもチームは盛り上がりません。狙うべきはファミリーです。

―野球でも、その方向で成功しているチームがいくつかありますね。ガッツリと試合を観たい方だけでなく「天気がいいから観に行こうか!」くらいの層に愛されることで、集客が増えています。

能田:この層は本当に大切で、子供は将来、大切なサポーターになってくれます。その点でもグルメって重要ですよね。アウェーチームの地元の料理があって、寒い日は暖かい飲み物を楽しめる、だからお父さん、お母さんも安心して子供を連れてくることができる、そんなスタジアムにしていくべきでしょう。

ラグビーワールドカップで、子供がおなかを空かせて泣いてしまったことが問題になりましたが、あれは絶対にいけません。幼少期の経験は強烈なので、楽しければ子供はきっとスタジアムに戻ってきてくれますが、おなかが空くようでは、二度とスタジアムに戻ってきてくれなくなってしまいます。

―ただ、グルメはなんとかなっても、アクセスは土地の問題があって難しい場合も多いでしょうね......。

能田:実は愛媛にも「モノレールを通そう」という意見がありますが、私は賛成できません。例えば、千葉市のモノレールは赤字で、(沿線にある)県庁の方くらいしか利用せず、解体するにも莫大な費用がかかるので存続・運用されていると聞いたことがあります。

交通インフラをつくるという名目があれば予算がおりてくるので、各自治体はいろんなものをつくりたがるようです。でも、人口減少社会なのですから、安易な収支計算でインフラをつくってしまうと、子供や孫に負の遺産を押しつけることになりかねません。四国新幹線だって、できたら在来線を第三セクターに押しつけ、次第に廃止されていくのであれば、もっと議論を深めていく必要があると思います。

だから――話を元に戻すと、スタジアムを郊外に建てて交通インフラで市街地と結ぶより、初めから街なかに建てたほうがいいと思うんです。愛媛FCが使っている愛媛県総合運動公園陸上競技場は、国体を開催するために建設されました。そしてこの時、バスを何百台も用意し、ピストン輸送で人を運んでいました。後学のために、その時の予算を知りたいですね。きっと、コスト面でもっとよい方法があったはずだと感じます。

スタジアムの"いい景色"を永遠にするために

―先生は今後、サッカーで「これをモチーフに描いてみたい」というものはありますか?

能田:今、企画を準備しているのは、女子サッカーとスポーツ代理人の話です。ただ、女子サッカーは厳しい問題を持っています。なでしこリーグは、非常に肖像権が厳しいんです。盗撮をする人がスタジアムで問題になって、一時期、撮影が不可になっていたんですよ。

最近はOKになりましたが、今もSNSへの掲載はNG。そんな理由でなでしこリーグは露出が少なく、だからマンガにしても......。

―ビジネスになりにくい、シビアな現実があるんですね。ちなみにスタジアムそのものについて何か描く予定はないんですか? 実は私、スタジアムが好きなので、先生の作品を読むと毎回「ここ、行ったことがある!」という瞬間があって楽しいんですが......。

能田:実は将来、スタジアムの設計者が主人公のマンガも書いてみたいと思っているんですよ。私、外国のスポーツの映像を見ていても、スタジアムが気になるんです。鹿児島ユナイテッドFCが全面協力、なんていかがですか?(笑)。

―いいですね。そういったマンガの聖地巡礼のような要素も、今後のスタジアム運営にあっていいかもしれません。では、最後、まだ私が聞ききれていない部分はありますか?

能田:僕はこれからも、もっとスタジアムで"いい景色"を観たいんです。僕はサッカーという競技も好きですが、サッカーを通して、日常であまり観られない平和な光景を見た時に喜びを感じます。

例えば家族連れがスタジアムで仲よさそうにしている姿を見ると、とても幸せな気持ちになるんです。この家族はうまくいっているのだな、余程うまくいっていないと、家族でサッカー場には行かないだろうからな、きっとお父さんはいろんな努力をしているんだな、などと想像する瞬間が好きなんです。

―わかります。

能田:また、他人同士が「同じ服を着ている」「同じ地元のチームを応援している」という理由で仲良くなっていくのを見た瞬間も「ああ、いいなぁ」と思います。そんな景色を今後ずっと残していくためにも、安全で、来やすく、おいしいものがあって、未来もずっと人で賑わうスタジアムが日本中にできたらいいな、と思っています。

―素敵なお話で締めていただけましたね。本当にそう思います!お話し、ありがとうございました。

インタビュー後に記念撮影 (左から有川編集長、能田先生)
インタビュー後に記念撮影 (左から有川編集長、能田先生)

漫画『ぺろり!スタグル旅』(ヒーローズコミックス)

◆内容紹介◆
サッカーとは旅とグルメのことである...!Nリーグ2部・千葉ユニティの熱烈な女子サポ2人、エリとハルのアウェイ遠征スタジアムグルメ漫遊記。

アウェイ遠征こそサポーターの醍醐味!まだ見ぬ地元のソウルフードを求めて、今週末も2人はスタジアムにいます──。読むとスタジアムに行きたくなる、サッカーグルメマンガ!

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