今回、話を伺ったのは『ぺろり!スタグル旅』など数々の人気作を上梓する漫画家・能田達規(のうだ・たつき)先生。サッカーやスタジアムグルメを描く側にとって、日本のスタジアムはどう見えるのか?先生の口からは次々と歯に衣着せぬ意見、現状への疑問が飛び出してきた。
(聞き手・有川久志 編集・夏目幸明)
1970年生まれ。愛媛県松山市出身。1989年、広島大学在学中に第1回ファミ通漫画大賞入賞。『おまかせ! ピース電器店』『ORANGE』『ぺろり!スタグル旅』などが代表作となる。愛媛FCのマスコット「オ~レくん」「たま媛ちゃん」「伊予柑太」をデザインした。
ジェフに昇格してほしい切実な理由
―先生は大学時代を広島で過ごしたから、元々はサンフレッチェ広島がお好きだったんですよね?その後、生まれ故郷に愛媛FCができて、そのサポーターにもなった、そんなご経歴だったかと......。
能田:はい、愛媛FCを応援するようになったのは、GMから「マスコットキャラをつくってくれませんか?」と相談されたこともきっかけでした。事務局の中に『ORANGE』(能田先生の作品、1部リーグ入りを目指す愛媛のクラブのストーリー)の読者がいて、直接、お電話を下さったんです。
やっぱり、自分が描いたマスコットを使ってくれていると「僕のチームだ!」と感じてテンションが上がりますね。観るのは(現在は仕事の関係で関東圏に住んでいるため)関東での試合が中心ですが、水戸や群馬くらいまではよく観戦に行きますよ。
―あとはやっぱりジェフユナイテッド市原・千葉ですよね。『ぺろり!スタグル旅』の主人公2人は"Nリーグ2部の『千葉ユニティ』の熱烈な女子サポーター"という設定ですから。
能田:ええ。だからはやくジェフ千葉には昇格してほしいんです。ぺろり!スタグル旅もJ1編を描こうと思っているのですが......。
―なかなか昇格してくれませんね。
能田:ええ。実はそのあたり、担当編集と議論になったことがあるんです。"ジェフがずっと昇格しなかったら、マンガの中の架空のチーム『千葉ユニティ』は昇格した体でJ1編を描いちゃってもいいかな"と......。
でも、これだけJリーグファンが読んでくれているのだから、史実通り、「千葉は2部リーグのままにしよう。J1編はジェフが1部にあがってからにしよう」となりました。
―先生は近年、マネーフットボールやスタジアムグルメなど、サッカーの周辺をモチーフにされていますね。
能田:それは、描く舞台が少年誌から青年誌に変わったことが大きな理由かもしれません。少年誌では、根性や努力がテーマとして正義だから例えば『ORANGE』のように、貧乏なクラブが知恵と工夫で頑張って昇格していくストーリーが描けます。
しかし青年誌になると、女子高生社長が大きなスポンサーを獲得して強くなっていく、という設定は好まれにくく、それよりもっと、社会問題と向き合うような、現実に立脚したテーマが求められます。
―なるほど。
能田:あとは私の側にも原因があります。知識が増えるにつれて、発想が飛躍しにくくなっていくんです。以前は妄想が膨らんだはずなのに、事実や現実を知りすぎると、それがなくなって描けなくなってくるんです。
そんななか、次第にサッカークラブが強くなる過程のなかでも『戦術』より『戦略』に興味が湧いてきました。凄い選手を連れて来て瞬間風速的に強くなる話より、クラブが永続的に強くなる話を描きたくなったんです。そんな経緯で、話が少年誌から青年誌寄りに変わっていったのかもしれません。
クラブが強くなっていく"順番"
―先生が、クラブの『戦略』面で理想的だと思うチームはどこですか?
能田:松本山雅FCですね。JFL時代からがっつりとお客さんが入っていて、J2でもトップクラスの動員数を誇り、J1に昇格しても皆が納得する――。
逆に、お客さんがまだ少ないJ2チームが補強でJ1に昇格して"これでお客さんが増えるはず"と突っ走るのは、あまりよい結果を生まないと思います。
―先生から見た山雅はどんなチームでしたか?
能田:愛媛がJ2に参入した7年後くらいに入ってきて、一瞬で抜き去っていったチーム、という印象です。実は松本山雅がJ2に昇格した初年度に「ぜひ行かねば」と、夏休みに温泉つきの二泊三日で家族と一緒に松本へ行ったんです。
すると駅前から、当時はあまり一般的でなかったチームのノボリが立っていて、スタジアムも見やすいサッカー専用で大勢のお客さんが盛り上がっているんです。しかも帰り、家族で駅前をウロウロしていると、クルマに乗った松本山雅サポーターが「愛媛さん、お疲れ様です」と笑顔で声を掛けてくれるんですよ。
しかも、温泉やホテルに行っても、フロントに松本山雅グッズが沢山置いてありました。私は「J2昇格1年目でこれか」と思いましたし、実際、市民レベルで意識が高いところは強くなると思うんです。そんな意味で、愛媛はJ2で松本山雅と戦った1年目から抜かれていたのかな、と思います。
―県民性も影響ありますか?
能田:盆地ってなぜか、地元に愛されるチームが生まれる気がします。甲府も市民の多くに「うちのチーム」と思われていますよね。
あとは、県民性よりスタジアムの立地が重要だと感じます。松本山雅はスタジアムの立地がよくないと言われますが、空港の横にあって車の便もいいから、決して悪くはない。私は常々、クラブチームが集客を増やすなら「コアファンよりも、その周辺のファンを大切にすべき」と言っています。私のような古参ファンは、何も言わなくてもスタジアムに行くんです(笑)。
もちろん古参ファンの要望も聞いてほしいですが、それより「便利だったら行ってみたいな」とか「観やすかったら行ってみたい」くらいの方に足を運んでもらうべく頑張るべきです。すると、どうしてもアクセスの良さが重要になってくるんですよね。
その点、私は愛媛のニンジニアスタジアムは立地がよくないと思います。大きな川を2本超えて、一度、伊予郡砥部町に入ってから、また松山市に入る、というような足を運びづらい場所にあるんです。
―話はそれますが、FC今治(元日本代表監督の岡田武史がオーナーをつとめる)についてはどんな感想をお持ちですか?
能田:「スタジアムを作ってから盛り上げよう」という順番は正しいので、ぜひ伸びて愛媛FCを刺激してほしいですね。一方の愛媛FCは「J1に昇格しないとお客が来ない」という考え方ですが、現時点でJFLにいる今治に観客動員数で肉薄されているわけで、今後はチームの強化だけでなく、スタジアムの立地問題を本気で考えていってほしいな、と思います。
"少しをたくさん"がポイント
―ぜひ「スタジアムグルメ」の話も聞きたいです。特に印象深かったのはどこですか?
能田:ファジアーノ岡山FCがシティライトスタジアムで開催している『ファジフーズ』は当時画期的でしたね。
(編集注)試合日に開催され「デミカツ丼」「カキオコ」「ひるぜん焼そば」「津山ホルモンうどん」など多彩な岡山ご当地グルメ、さらにはアウェーチームの地域のグルメも少しずつ食べられるなど、サッカーファン以外も訪れるほど人気が高い。
屋台はファジアーノのチームカラーで統一され、レイアウトも集会しやすい。かつ内容も充実しています。最近では鹿児島ですね。
―ありがとうございます!(笑)
※聞き手の有川編集長は鹿児島ユナイテッドFCの立ち上げ(当時はFC KAGOSHIMA)および経営に関わっている
―はい、参考にしたチームは、岡山のほか、2~3箇所、名前が挙がっていました。特に鹿児島は、県が"食"や"農業"を盛り上げていこうとしているので、最初から「食べ物を充実させよう!」というテーマを持って取り組んできたんです。メニューの種類が多いことについて、アウェイのサポーターにも「こんなに多いとは思わなかった!」と言われた事があります。やっぱり、いろんなものを食べたいと思うんですね。
能田:あと、鹿児島はスタジアムの場所もいいですね。道が整備されていて、うらやましい限りです。
―ありがとうございます。なんだか、シメが期せずして鹿児島ユナイテッドの宣伝のようになってしまいましたね(笑)。
漫画『ぺろり!スタグル旅』(ヒーローズコミックス)
◆内容紹介◆
サッカーとは旅とグルメのことである...!Nリーグ2部・千葉ユニティの熱烈な女子サポ2人、エリとハルのアウェイ遠征スタジアムグルメ漫遊記。
アウェイ遠征こそサポーターの醍醐味!まだ見ぬ地元のソウルフードを求めて、今週末も2人はスタジアムにいます──。読むとスタジアムに行きたくなる、サッカーグルメマンガ!
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