(取材と文・彦部幸子)

2026年10月13日、幕張メッセで開幕した『CEATEC 2026』のオープニングセッションとして、『観戦を超える、スタジアム・アリーナのトランスフォーメーション』と題したセッションが開催された。最新のデジタル技術やイノベーションを発信する国内最大級のデジタルイノベーション総合展『CEATEC』。今回のセッションでは、株式会社ウフルの園田崇史代表取締役社長CEOがモデレータを務め、スタジアム・アリーナの変革を担う4人のパネリストが登壇。テクノロジーとリアル空間の融合による新たな体験価値や、スタジアム・アリーナの未来について意見を交わした。
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<登壇者>
田中 洋市氏
株式会社NTTドコモ
コンシューマサービス本部エンターテイメントプラットフォーム部
ベニュービジネス 担当部長
二井内 宏之氏
三井不動産株式会社
商業施設・スポーツ・エンターテインメント本部
スポーツ・エンターテインメント事業部長
正田 直也氏
株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント
事業本部 営業統括部 営業企画推進部 部長
川端 俊宏氏
ぴあ株式会社
取締役執行役員
サーバーレジリエンス担当 /PV-60thプロジェクト担当 / 中期デジタル事業戦略担当 /
グローバルビジネス担当 / システム・AI戦略担当 / ライブ・エンタテインメント担当 /
システムソリューション担当 / スポーツエンタテインメント担当
PDHX株式会社 代表取締役会長
園田 崇史氏(モデレータ)
株式会社ウフル
代表取締役社長CEO
各社で進む、スタジアム・アリーナのトランスフォーメーション
園田氏:本日はお集まりいただきありがとうございます。弊社ウフルは、SalesforceやAWSなどの様々なプラットフォームとAIをかけ合わせて、企業や政府のDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現している会社です。
スタジアム・アリーナの領域でも、さまざまな形でDXを推進していますが、最近では、VIPルームのホスピタリティを支えるプラットフォームの提供や、モバイルオーダーの仕組み『売り子ール』の展開などに取り組んでいます。『売り子ール』は、Jリーグのクラブやプロ野球のチームなどに提供しており、ZOZOマリンスタジアムをはじめとする複数のスタジアムに導入されています。また、スタジアム専門のwebメディア『THE STADIUM HUB』の運営なども行っており、スタジアムを軸としたコミュニティの醸成も支援しています。
園田氏:まずは各社で行っている取り組みをご紹介いただき、その後テーマ別にお話を伺っていければと思っています。
このように口火を切った園田氏。ここから各登壇者による、それぞれの企業の取り組みが語られた。
一人目の登壇者はNTTドコモの田中氏。2006年にNTTドコモに入社し、海外ネットワーク事業や新規事業の立ち上げなどを経験。2019年以降はスポーツ・エンターテインメント分野での事業開発に携わり、Jリーグとのパートナーシップ、新規観戦体験の創出などを推進してきた。
田中氏 :弊社のエンターテイメント事業では、チケット・ファンクラブなどのプラットフォームや各種通信コンテンツをスタジアム・アリーナというリアルな場とつなげ、IP(知的財産)の多角的な展開を目指しています。
また、以前は国立競技場と呼ばれていたMUFGスタジアムや愛知のIGアリーナなどを代表企業として運営、2030年開業予定の静岡市アリーナなど、施設の新規立ち上げにも携わっています。また、近年は貸し館事業だけでなく、付加収入を生み出すための事業の柱を立てていくことにもチャレンジもしており、ネーミングライツやホスピタリティ事業、飲食事業など、観戦体験の高度化にも力を入れているところです。
また、通信技術を活用し、離れた会場同士を大容量・低遅延でつなぐことで、複数の会場で一体感のあるイベント体験を生み出す取り組みも進めています。音楽ライブやスポーツなど、会場の物理的な制約を超えてリアルな体験を広げていくことも、テクノロジーによって可能になりつつあります。
そのほか、力を入れているのが地域との共創です。スタジアム・アリーナでのイベントというのは閉じたものになりがちですが、地域の方と一体となって街全体で盛り上げることにより、賑わいを作る取り組みも行っています。
こうした取り組みを通じて、観戦体験の価値を高め、より多くの人に会場へ足を運んでもらうことで、スタジアムやアリーナならではの熱量をさらに高めていきたいと考えています。

二人目の登壇者は、三井不動産の二井内氏。総合スポーツメーカーでの勤務経験を持つ同氏は、三井不動産への入社後、商業施設の開発を担当。その後、商業施設とスポーツ・エンターテインメント関連の組織統合を機に、現在の事業部でスポーツ・エンターテインメント分野における新たな価値創出に取り組んでいる。
二井内氏 :三井不動産では、2021年の東京ドームのグループ会社化や、2022年の『LaLa arena TOKYO-BAY(ららアリーナ とうきょうベイ)』の起工などを経て、商業施設とスポーツ・エンターテインメントとの親和性に着目、2024年に両事業の組織を一体化し、それぞれの強みを掛け合わせた価値創出を目指す体制へと移行しました。
現在は、『Kubota LaLa arena(仮称)』(大阪)、『新秩父宮ラグビー場(仮称)』(東京)など、1万人規模のアリーナ整備に注力しているのですが、最近は施設づくりにおいて『スポーツ』と『興行』の双方に対応できる施設づくりを目指しています。例えば、スポーツチームの本拠地となる施設は、地域に根差した存在になっていきます。スポーツを通じてこうした施設を実現することで、興行事業だけでは生み出せない価値を長期的な視点から創出することを目指しています。
施設の開発・運営にあたっては、読売新聞など、スポーツチームを持つ企業とのJV(共同事業化)も志向していて、さらに、商業施設やホテルなどを組み合わせ、街全体で楽しめる環境の整備にも取り組んでいます。
こうした取り組みは不動産事業をメインとする弊社にとってまさにトランスフォーメーションだといえます。以前は土地の契約期間や面積などで勝負してきましたが、商業施設とスポーツ・エンターテインメントの事業を一体的に展開することで、関わる組織や人が持つIP(知的財産)や目指すものなどをとても重視するようになりました。このような変化は、新たな顧客層の獲得にもつながってきています。
三人目の登壇者は、ファイターズ スポーツ&エンターテイメントの正田氏。同社は、北海道日本ハムファイターズ(以下、「ファイターズ」)の本拠地『エスコンフィールドHOKKAIDO』の運営に加え、周辺の複合エリア『Fビレッジ』全体のマネジメントやプロ野球関連の興行業務などを担い、球場を核としたボールパークづくりを推進している。
正田氏 :現在の私たちは、観戦を核としながらも、エリア一帯で街づくりを進めているところです。球場というハード面はほぼ完成していますが、その周辺の街づくりは進捗30~40%程度です。スポーツ、北海道、そしてそこに集う皆さまの交流拠点となるよう、農業体験・学習施設や高齢者住宅、認定こども園などを整備済みで、2028年には最寄り駅もできる予定です。さらに、商業施設、オフィス、大学などの開発・移転計画もあり、先月9月25日にはファイターズの2軍(ファーム)施設を、千葉県鎌ケ谷市から北海道恵庭市へ移転するための基本協定も締結されました。このように街としての拡大が進んでおり、これらが完成すれば、当初の倍ほどの来場者を見込めると予想しています。
来場者の満足度を高める要素として、私たちは「コンテンツ価値」と「ベニュー価値」という2つの価値を重視しています。前者はファイターズの魅力や人気など、コンテンツそのものが持つ価値を、後者は設備やエンターテインメント、テクノロジーを活用したサービスなど、施設そのものが提供する価値を指しますが、特にベニュー価値については、まだまだ取り組めることが多くあると思っています。最近、私たちは、試合の前後で1時間ずつ来場者の滞在時間を延ばすことを目標としているのですが、体験価値を高めることで滞在時間を延ばすことが収益の拡大にも繋がると考えています。

最後の登壇者は、ぴあの川端氏。同社でAI・システム戦略やDX推進、グローバル事業などを担当する取締役を務めるほか、子会社のPDHXでは代表取締役会長を務める。同社は、スポーツやコンサートなどでVIP向けのホスピタリティプログラムを企画・運営し、観戦・鑑賞体験の付加価値向上に取り組んでいる。
川端氏 :弊社は1972年の創業以来、エンターテインメント業界の真ん中で事業を展開してきましたが、近年は、アリーナの運営やスポーツを中心とした国際大会の企画・運営など、スポーツ業界のトランスフォーメーションを支えるとともに、会場で生まれる体験価値を高める事業にも領域を広げています。
2020年には、日本初の民設民営による1万人規模のアリーナ『ぴあアリーナMM』を開業、そのほか、ライブハウス型のイベント会場『PIT』の運営や、劇場と会議・イベント施設を組み合わせた複合施設『東京建物 ぴあ シアター&カンファレンス』の運営も行っています。一方、PDHXは、充実したホスピタリティ事業を業界全体に広げていきたいという思いから始まった会社で、私も代表として運営に携わっています。
直近の事例として、2026年9月開催の『愛知・名古屋アジア競技大会』に合わせて久屋大通公園などで展開された『ONE ASIA WORLD(ワン・アジア・ワールド)』があります。同事業では、競技会場の外にも大会の熱気を広げることを目指し、ホスピタリティラウンジの設置や、アスリートとの交流、メダリストセレブレーション(選手がステージに登場し、来場者とともに活躍を祝うイベント)の特別観覧といったプログラムを提案しました。また、子どもが参加できるプレイグラウンドの体験コンテンツや、食や文化を通じて世界と交流できる場づくりなど、多様なコンテンツを手掛けていました。
ホスピタリティ事業というのは、来場者に楽しんでいただくことが大前提ですが、それだけではなく、対価に見合う体験価値を創出するとともに、さまざまなニーズに応えられる場や機会をつくることで、エンターテインメント業界全体の持続可能性を高めていく、そんな仕組みづくりを目指しています。
前編では、セッション冒頭で語られた各登壇者による企業の取り組みをお届けした。後編では、スタジアム・アリーナやスポーツ・エンターテインメントの価値を高めるためのトランスフォーメーションについて、テーマごとに語られた内容を紹介する。
後編はこちらから
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