【第7回】 隼は舞いおりた ~ アル・シャバブのモハマド・アル・ラジェフ理事インタビュー(後編)
【第7回】 隼は舞いおりた ~ アル・シャバブのモハマド・アル・ラジェフ理事インタビュー(後編)

【第7回】 隼は舞いおりた ~ アル・シャバブのモハマド・アル・ラジェフ理事インタビュー(後編)

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サウジアラビアの首都リヤドの名門アル・シャバブFCのモハマド・アル・ラジェフ理事の来日に際し、国立競技場でのFUJIFILM SUPER CUP視察に帯同したTHE STADIUM HUBは、試合後に都内のホテルで同氏へのインタビューを敢行した。神経科医でもあるアル・ラジェフ氏は、初めて訪れた日本で何を見たのか。後編では、両国の今後のサッカー外交の展望、そしてワールドカップ開催に向けて計画が進む新スタジアムの重要性について熱く語ってくれた同氏の言葉をお届けする。

(取材と文・筑紫直樹、写真・山﨑祐昌(Uhuru Corporation)、Eric Wolffe(Uhuru Corporation)、筑紫直樹)

前編はこちら

サウジアラビアのサッカーと未来について語るアル・ラジェフ氏
サウジアラビアのサッカーと未来について語るアル・ラジェフ氏 (画像:Uhuru Corporation)

―Jリーグは、ホームタウンの地域コミュニティと密接に連携し、社会貢献活動やボランティア活動などを通じて地域活性化を推進していることで知られていますが、サウジアラビアでも、サッカークラブへの期待は高まっているのでしょうか。

アル・ラジェフ氏:サウジアラビアのサッカークラブも、近年は地域コミュニティとの関係構築の重要性を認識しています。歴史的にも、サッカークラブはサウジアラビア社会の中心的な存在でしたが、現在は組織化されたユース育成プログラム、地元企業とのパートナーシップ、そして社会的責任事業の実施に主眼を置いています。

特にサステナビリティ、女子サッカー、草の根の育成プログラムの優先順位は高くなっており、Jリーグクラブのように、サウジアラビアのクラブも健康増進プログラムや教育機関とのコラボ、地域におけるスポーツ文化醸成イニシアティブなどを通じて、地域コミュニティとの連携を深めています。

―日本とサウジアラビアのサッカー界は、どのような投資や協働を通じた連携ができると思われますか。

アル・ラジェフ氏:私たちは、サッカーのエコシステムを構築していくうえで、日本を重要な戦略的パートナーとして見ており、今後も技術共有やインフラ開発事業、選手の育成プログラムなどを通じて協働できると考えています。日本のサッカークラブや協会は、若手の育成に秀でており、サウジアラビアが学べることは多いと思います。また、スポーツアナリティクスやAIによるパフォーマンストラッキング、そしてスタジアムテクノロジー分野への投資は、双方にとって有益であると考えています。

―今回、初来日されてJリーグのスーパーカップを観戦されました。Jリーグや日本のサッカー界、そしてサポーター文化についてどう思われましたか。

アル・ラジェフ氏:Jリーグは、プロフェッショナリズム、安定性、地域コミュニティとの関係構築を軸とするモデルで、その組織化されたユースやアカデミー年代の育成、規律を重んじるプレースタイル、戦術的インテリジェンスによって、高いスタンダードを維持しています。そして、日本のファンやサポーターは、信じられないほど情熱的で忠誠心にあふれています。

また、Jリーグを語るうえで忘れてはいけないのは、強固なスポンサーシップモデルやメディア放映権販売戦略によってもたらされた商業的な成功の側面です。国内の育成と世界的な競争力がバランスよく両立している日本サッカー界の在り方は、サウジアラビアのクラブにとってもインスピレーションになるでしょう。

アル・ラジェフ氏は日本とのパートナーシップを重視する
アル・ラジェフ氏は日本とのパートナーシップを重視する (画像:Uhuru Corporation)

―来日前と来日後では、日本のサッカーの印象は違いますか。

アル・ラジェフ氏:初来日の前は、日本のサッカー界の印象は、規律あるフットボールスタイルと優れたビジネス感覚に裏付けられているというものでしたが、実際に来日してみると、選手の育成やスポーツ分野における技術のシームレスな統合といった、細部へ意識の高さ、そして、日本独自の文化に深く根付く敬意とチームワークを重んじる精神性に感銘を受けました。日本が緻密に組織化されたアプローチでサッカーに向き合っていることは、サウジアラビアのクラブにとっても非常に意義のあるモデルケースとなるでしょう。

―2024年1月にアル・シャバブFCと株式会社ウフルが協力覚書(MOC)を締結しました。ウフルは、日本国内のプロ野球やサッカースタジアムにおけるファン体験の向上や、ファンエンゲージメントの最適化を支援していますが、今後、どのような関係構築を期待していますか。

アル・ラジェフ氏:株式会社ウフルとのMOC締結は、進化を続けるサウジサッカー界にとって非常に楽しみなステップであり、両者によるパートナーシップが今後、DXの分野にイノベーションをもたらすことを期待しています。ウフルが日本のJクラブやプロ野球チームに提供しているモバイルオーダーの仕組みやCRMの仕組みが、サウジアラビアクラブのクラブ運営や営業活動、ファンエンゲージメントの最適化を支援してくれることでしょう。

また、両者のコラボレーションにより、クラブ経営や(スタジアムや練習場といった)インフラ開発の成功事例を紹介し合うことで、サウジアラビアと日本のサッカー界双方にとって有益な情報や知識を交換する機会も生まれます。さらには、サウジアラビアのスポーツ業界に関心がある日系企業に対して、アル・シャバブFCが窓口となって両国の交流を支援することもでき、今後の展開をとても楽しみにしています。

アル・ラジェフ氏とウフルの園田社長
アル・ラジェフ氏とウフルの園田社長 (画像:Naoki Tsukushi/THE STADIUM HUB)

―アル・シャバブFCには女子チームもありますが、サウジアラビアにおける女子サッカーの成長はどのようなものでしょうか。

アル・ラジェフ氏:サウジアラビアでも女子サッカーの人気が高まっており、アル・シャバブFCでも男子同様に女子チームにも投資をしています。例えば、アル・シャバブFC女子では、リヨン(フランス)やFCバルセロナ(スペイン)でUEFA女子CLを3度も優勝した元フランス代表MFのケイラ・ハムラウイや、パリサンジェルマン(フランス)やFCバルセロナ、レバンテUD(スペイン)といった強豪で活躍した北マケドニア代表FWのナターシャ・アンドノワなどの素晴らしい選手たちがプレーしています。多様性を尊重し、社会のすべての人が豊かに暮らせるように投資や開発を推進していくこともクラブの役割です。

女子サッカーのトップリーグであるSAFF女子プレミアリーグは3年前に発足したばかりですが、ファンの熱気やサポートを見るかぎり、今後数年でサウジアラビアにおける女子サッカーは大きく成長すると確信しています。ちなみに、女子と男子の両チームが本拠地としているアル・シャバブ・スタジアムは、改修を経て2023年にリニューアルオープンしたばかりです。

改修を経て2023年に再オープンしたアル・シャバブ・スタジアム
改修を経て2023年に再オープンしたアル・シャバブ・スタジアム (画像:Al Shabab)

―最後の質問です。日本と同じように、サウジアラビアでもまだ多くのクラブが陸上競技場を本拠地としていますが、2034年FIFAワールドカップに向けてリヤド、ジェッダ、そしてキディヤやネオムといった計画都市で非常に野心的なスタジアムが建設されています。いずれもスタジアムの常識を覆すような特徴的なプロジェクトばかりですが、これらのフットボールスタジアムが完成することで、サウジアラビアサッカー界には、どのような影響があるとお考えですか。

アル・ラジェフ氏:新スタジアムが完成すれば、サウジサッカー界は間違いなく全世界から大きな注目を集めることになります。いずれも巨額のインフラ投資プロジェクトで、多くの雇用を創出し、スポンサーシップの機会も増え、社会全体が成長するきっかけになるでしょう。世界はサッカーで繋がっており、2034年FIFAワールドカップは、人類に向けたメッセージを発信する場になります。2027年AFCアジアカップと2034年FIFAワールドカップで、多くの日本の皆様にサウジアラビアに来ていただくことを心より願っております。

―今後の展開が非常に楽しみです。本日はありがとうございました!

アル・ラジェフ氏:またサウジアラビアか日本で会いましょう!

試合後にアル・ラジェフ氏と交流した埼玉の小学生たち
試合後にアル・ラジェフ氏と交流した埼玉の小学生たち (画像:Uhuru Corporation)

アル・シャバブFC - https://www.ssc-invest.com/


終始、穏やかなトーンで日本とサウジアラビアの明るい未来への希望を語ってくれたアル・ラジェフ氏は、また近いうちに日本に戻ってくると約束をしてくれた。

2022年11月22日、カタールのルサイル・スタジアム。8万8,012人の大観衆が見守る中、グリーン・ファルコンズ(緑の隼=サウジアラビア代表の愛称)は、その1か月後に世界王者としてFIFAワールドカップを掲げることになるアルゼンチン代表に逆転勝ちするという世紀の番狂わせをやってのけ、世界を驚愕させた。

2034年、サウジアラビアの新スタジアムを目にした世界中のサッカーファンは、再び息を呑むことになるだろう。

ネオムの新スタジアムの鳥瞰イメージ
ネオムの新スタジアムの鳥瞰イメージ (画像:SAFF)
ネオムの新スタジアムの完成イメージ
ネオムの新スタジアムの完成イメージ (画像:SAFF)
リヤドで建設予定のニュー・ムラッバ・スタジアムの鳥瞰イメージ
リヤドで建設予定のニュー・ムラッバ・スタジアムの鳥瞰イメージ (画像:SAFF)
ニュー・ムラッバ・スタジアムのコンコースの完成イメージ
ニュー・ムラッバ・スタジアムのコンコースの完成イメージ (画像:SAFF)

<了>

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