(取材と文・筑紫直樹、写真・有川久志、筑紫直樹、長崎スタジアムシティ)

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バックスタンドとホテルがある東側コンコースを北に向けて通り抜けると、北側のオフィス棟『STADIUM CITY NORTH』と屋内アリーナでBリーグのヴェルカ長崎のホームアリーナ『HAPPINESS ARENA』が現れます。この2機能もスタジアムシティのコンコースからブランチされているため、独立した別の建物というより、同じ複合施設内の別の機能という印象を与えます。
HAPPINESS ARENAは、約6,000席の客席を完備した屋内スポーツ&エンターテインメントアリーナで、照明や音響から観覧席の勾配まで、すべてが最高の観戦環境を構築するために設計されています。なお、スタジアムのネーミングライツ(命名権)の必須要件に「Peace Stadium」という表現の使用が含まれていたことから、アリーナも同様かと思いきや、『HAPPINESS ARENA』という名称は、ネーミングライツを獲得したコカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社による命名とのことです。
この日は、B1公式戦の長崎ヴェルカvs千葉ジェッツ戦があり、ほぼ満員となる5,545人が見守る中、迫力いっぱいの演出とブースターたちによる大声援が場内を盛り上げていました。

印象的だったのは、試合開始前後の来場者たちの多くが、スタジアム側のコンコースに滞留していたことで、アリーナ前のスペースが大混雑せずに比較的スムーズな動線が確立されていたことでした。

これもまた、フットボールスタジアム、屋内アリーナ、ホテル、オフィス棟、商業棟という異なる機能をシームレスに繋ぐコンコースの利点のひとつといえます。誤解を恐れずにいえば、ある意味、このコンコースこそが、長崎スタジアムシティを唯一無二の存在にしている「第6の機能」といっても差し支えないと感じました。
ただ単に5つの機能が同区画に集合しているのではなく、コンコースによって完全なる一体感を生み出していることから、長崎スタジアムシティは世界屈指の「統合型スポーツ&エンターテインメント・コンプレックス(Integrated Sports & Entertainment Complex=ISEC)」といえるでしょう。

10月16日は、同行した視察グループの中に、弊サイトの元編集長で現在はB2・鹿児島レブナイズの代表取締役社長COOとして活躍する有川久志氏がいたので、長崎スタジアムシティの感想を聞いてみました。
―有川さんはBリーグクラブの社長として、日本中のアリーナをご覧になっていると思いますが、あらためてHAPPINESS ARENAの印象を聞かせてもらえますか。
有川氏:HAPPINESS ARENAは沖縄、佐賀、千葉に続いてオープンした、まさにプロバスケットボールの興行に特化したアリーナですね。コンコースの機能(飲食、ショップなど)は最小限にして、コート上のバスケットボールをショーのように魅せることに特化した印象でした。
また、長崎のブースターの皆さんは、隣接するスタジアムに自由に出入りし、飲食を楽しんで、ティップオフの時間が近づくとアリーナに入るというスタイルで、これは沖縄、佐賀、千葉のアリーナと一線を画す特徴だと思いました。
―PEACE STADIUM Connected by SoftBankについてはいかがでしょうか。
有川氏:世界中のフットボールスタジアムを鑑みても、ここまで「出入りが自由なフットボールスタジアム」は存在しないのではないでしょうか。スタジアムの座席が公園のベンチのようでもあり、映画館の個席のようでもあり、飲食店の座椅子のようでもあります。つまり。スタジアムにふらっと来て、コーヒーを飲みながら読書もできるという贅沢で優雅な時間を満喫することができる。完全に開かれたスタジアムといえるでしょう。

ちなみに、長崎と同様にスタジアムを特定エリアのコアに置いた事例として存在するシンガポールのアワー・タンピネス・ハブは、スタジアムが中庭(パティオ)のような位置付けになっていた印象でした。つまり、街の中にはあるものの建物としては閉じている、来場者や関係者だけの空間です。
対して、長崎スタジアムシティは、スタジアム自体が広大な公園としてコミュニティのハブになっていると感じました。公園がそうであるように、スタジアム=解放空間で、目的なく時間を消費できる場所になっています。24時間(ではないけれど)オープンな場所という印象を与えます。これが成立するのは、安全大国・日本だからこそであり、それはとても誇ってよいことだと思います。
さて、翌27日は、J2第36節のV・ファーレン長崎vs鹿児島ユナイテッドの一戦がPEACE STADIUM Connected by SoftBankでありました。今回の取材では、長崎バスターミナルホテルという市内のホテルに宿泊したのですが、何とこのホテル、長崎空港からのシャトルバスが目の前に泊まるという好立地であるだけでなく、帰りの空港行きのシャトルバス乗車券もホテルのフロント券売機で買えてしまうのです。しかも、支配人さん含むスタッフの皆様は、V・ファーレンの試合日はユニフォーム姿で接客するという意気込みです。


スタジアムには市電で向かいましたが、長崎電気軌道株式会社が長崎スタジアムシティにおける公共交通機関利用促進に向けたパートナーシップを締結しているということもあり、市電の運転士さんたちも試合日はユニフォームを着ています。まさに街ぐるみでV・ファーレン長崎の活躍を応援している姿が伝わってきます。


フットボールスタジアムでの観戦体験でよく重視されるのが、観客席とピッチの距離の近さですが、これは視覚的な楽しみもさることながら、大歓声や音響演出などの音の質の高さも醍醐味となります。この日の試合でも、スタジアム内には厚みのある重厚な音が響いており、ホームとアウェー両サイドの観客の興奮と熱狂を生み出すのに一役買っていました。この日は、実に1万7,978人の入場者が臨場感あふれるフットボールスタジアムでのサッカー観戦を楽しみました。


今後も長崎スタジアムシティは、訪れる度に新たな楽しみに出会えるユニークな場所として、日本中、そして世界中から訪れる来場客にさまざまな体験を提供し、同時に鮮烈な思い出をその記憶層に刻んでいくことでしょう。そして、この長崎に新たに生まれた「日常的に賑わう都市公園のようなスタジアム」に世界がすでに注目し始めています。
2024年12月上旬、長崎スタジアムシティの設計・施工JVの代表団(安井建築設計事務所、竹中工務店、戸田建設、EY Japanの代表者により構成)が渡英し、マンチェスターで開催された『スタジアムビジネス設計&建設サミット2024』において、プロジェクトの概要を世界の名だたるスポーツビジネス、スタジアム関係者に向けて発表しました。発表後、英プレミアリーグクラブのスタジアムの設計実績のある建築士や業界のリーダーたちの間で長崎スタジアムシティが大きな話題となっていた、と現地で伝えられました。

九州最西端の長崎に生まれ、常にシン化を続けながら「新たな日常の在り方=シン日常」を提供する長崎スタジアムシティの未来を今後も注視していきたいと思います。

<了>
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