こんにちは。海外調査・分析担当の筑紫です。
毎年、欧米でスタジアムやアリーナといったスポーツ施設のベニュービジネスにフォーカスした『スタジアムビジネス・サミット(TheStadiumBusiness Summit=SBS)』とチケッティング分野に特化した『チケッティングビジネス・フォーラム(TheTicketingBusiness Forum=TBF)』が開催されています。
新型コロナが世界に蔓延する直前の2019年9月、アジア初のチケッティングビジネス・フォーラムが香港で開催されることになり、主催者であるロンドンのエクスペリオロジー(Xperiology)社のイアン・ナトール氏に意気込みを聞いたことが、今や遥か昔のことのように感じられます。
あれから4年、世界で多くのスポーツ大会やイベントが再開する中、なんと今度はスタジアムビジネス・サミットがアジアで初めて開催されることになりました。舞台は再び香港。主催者のナトール氏に、『スタジアムビジネス・サミットASIA 2023』(2023年10月19・20日開催)について話を聞きました。
(文と聞き手・筑紫直樹)
―スタジアムビジネス・サミットが初めてアジアで開催されます。どのような経緯でアジア地域、そして香港での開催が決まったのでしょうか
イアン:これまで15年間にわたり、世界中のスタジアム業界やアリーナ業界のリーダーたちが集う会議イベントを開催してきましたが、そのフォーカスは常に欧州のプロジェクトでした。欧州以外の地域に目を向けると、北米はすでにこの分野の会議イベントが充実しており、業界内連携が深いレベルで確立済みだといえます。ですが、アジアの広大かつ断片化した市場においては、情報や知識の共有のためのネットワーキングの機会が十分ではないと考えていました。
新型コロナによるパンデミックが終息し、海外への移動が再開したこともあり、2023年はアジア版スタジアムビジネス・サミット初開催にとってまたとないタイミングだと感じています。
では、なぜ香港なのか。それは、アジア最大級のスポーツ&エンターテインメント総合公園として、世界中から大きな注目を集めている啓徳体育園が建設中だからです。私たちは、世界屈指の施設運営事業者であるASMグローバル(ASM Global)社や世界トップクラスのスポーツ建築会社であるポピュラス(Populous)社など、啓徳体育園整備事業の主要ステークホルダーたちと長期にわたって良好な関係を築いてきました。
つまり、香港には最新の施設運営手法やビジネスアイディア、先進技術が集まっているだけでなく、世界最大級の業界リーダーたちが参加している大型プロジェクトが現在進行中なのです。
今後は、啓徳体育園内の諸施設が完成していくにつれ、各プロジェクトにフォーカスしつつ、スタジアムビジネス・サミットASIAの規模も拡大していきたいと考えております。
―すでに著名な業界人たちが参加を表明していますが、特にイアンさんが楽しみにしている参加者やプロジェクトはありますか?
イアン:もちろん多くの業界リーダーたちに会うことも楽しみですが、個人的に期待しているのは、サッカーや野球の球団のホームスタジアムのプロジェクトです。スタジアムビジネス・サミットでは、不動産ディベロッパーや自治体、球団やクラブが一堂に会し、ネットワーキングを通じて知見を蓄えることで、プロジェクトに良い結果をもたらす最適な場だと考えています。
また、2002年日韓ワールドカップのために建てられたスタジアムなど、竣工から20年以上が経ち、徐々に老朽化している施設の改築や改修といったプロジェクトにも多くの可能性が秘められているとも考えています。
―日本からもスポーツビジネスのエキスパートが参加するようです。
イアン:今回、日本からはアビーム・コンサルティングやさいたまスーパーアリーナといった日本のスポーツビジネスの最前線で活躍する組織の代表団が参加し、日本における今後のスタジアム&アリーナ建設事業や資金調達スキームの展望について講演してくれます。すべてのプロジェクトが、アジア地域のスポーツ業界にとって重要なヒントを提供してくれるでしょう。
―アジアにおけるスタジアム&アリーナ市場は成長しているとお考えですか。
イアン:間違いなく成長していると考えていますが、現在は多くの知見を取り入れ、必要な情報や体験を獲得している段階で、長期的成長スパンにおける幼年期の段階だと見ています。これまでアジアでは、短期間にスポーツの主要大会や国際試合などを開催するための近視眼的なライフサイクルを想定した巨大施設を整備するケースが目立ちましたが、その反面、大会閉幕後のレガシーや維持管理、非利用日の収益構造といった要素については議論が足りなかったケースも多く、結果的に無用の長物たる『ホワイト・エレファント(白い巨象=収益率が著しく低く、毎年赤字を垂れ流している遊休インフラを指す業界用語)』がアジアには散在しています。
ただ、近年では、自然環境だけでなく、財務的および社会的な意味においても、建物の持続可能性を重視する傾向があると感じています。空席だらけのコンクリートのハコモノに税金を投入したいと思う市民はいません。不動産ディベロッパーは、地域コミュニティが活性化する目的地や観光地を創造したいと願っていますし、スポーツチームやステークホルダーは、ファンやサポーターに愛され、収益を生み出すプロフィットセンターとして、チームやクラブのブランドを飛躍させるスタジアムやアリーナを求めています。
―日本からサミットに参加したいというスポーツチームやスタジアム整備プロジェクトの関係者は、どのように申し込めばよいでしょうか。
イアン:ご興味のあるスポーツチームや施設関係者、新たなスタジアムやアリーナ整備プロジェクトの関係者の方々は、ぜひサミット公式サイトからご連絡ください。アジア初となる歴史的なスタジアムビジネス・サミットで、日本の皆様に会えることを心より楽しみにしています!
スタジアムビジネス・サミットASIA 2023公式ウェブサイト(英語版)
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