アントラーズの試合日は真っ赤に染まるカシマスタジアム。しかしその立地条件は決して恵まれているとは言えない。集客力に大きな影響を及ぼす半径30㎞圏人口は約70万人で、関係者は「30㎞圏の半分は海ですから」と苦笑する。そんなカシマスタジアムの改装レポートを、人気の秘密も探りつつお伝えしたい。
(聞き手・有川久志 編集・夏目幸明)
アントラーズトージって何だ!?
―今回の改装の目玉は「アントラーズトージ」のオープンだと思うのですが......少しさかのぼって、アントラーズがフィットネス、クリニックなどの"ノンフットボールビジネス"を成功させていった経緯をお教えください。
箕輪:私たちはどんなビジネスも「地域貢献」ありきで考えています。地域の方の話を伺って、そのなかから地域の問題点を探り、我々にできることを提案しているんです。
―具体的には?
箕輪:例えばこの地域に運動できる場所があまりなかったため「カシマウェルネスプラザ」を立ち上げました。
マシンジム、フィットネススタジオだけでなくボルダリングルームもあって、プログラムも「足つぼ体操」やヨガなどなど充実しています。
また、スタジアムのコンコースのラバーを新設し、1周630mのウォーキングコースをつくって朝10時から22時まで無料開放しているんですよ。
―サッカークラブの優位性を活かした事業ですね。
箕輪:そうなんです。さらに「健康を増進してもらったなら次は医療かな」と考え、チームドクターが診察する「アントラーズスポーツクリニック」を設立しました。せっかくプロスポーツの現場で培ってきた医療メソッドがあるなら、地域の皆さんにも共有してもらおうと考えたんです。
―ビジネスはお金があればどうとでもなるものではないと思うんです。仮に大資本がスポーツクリニックをつくっても、ノウハウもなく、情熱を持った社員もおらず、結局、既存のクリニックに比べ優位性が保てなくなるはずなんです。そんななか、アントラーズの方たちは"スポーツクラブにできること"をめいっぱいやっている、というわけですね。
箕輪:仰る通りです。「アントラーズスポーツクリニック」には、MRIひとつとっても「3.0テスラMRI」という最先端の機械が置いてあります。これを活用しない手はありません。
萩原:すると、実際に変わってきたんです。アントラーズスポーツクリニックの開業前は、地元の子がケガをすると、県外の有名なドクターを訪ねる場合もありました。しかし現在は、逆に県外からここにきてくれるようになったんですよ。
―まさにスポーツチームを持っている優位性が活かされていますね。やはりカシマサッカースタジアムの指定管理者※に選ばれたことが大きかったのですか?
※指定管理者制度とは、公園や道路や水道などの公の施設を民間が管理・運営できる制度を指す。カシマスタジアムは2006年4月1日からアントラーズの運営会社である株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シーが指定管理者となり、現在に至るまでスタジアムを管理している。
箕輪:はい。クラブがスタジアムも運営するメリットは非常に大きいですね。通常の民間企業が指定管理者になっても、クリニックのような「クラブがあるからこそ成り立つ」ビジネスはできないと思います。一方で我々も指定管理者にならなければスタジアムの利用に様々な制約があり、現在のような事業はできなかったかもしれません。
―今回開業した「アントラーズトージ」も、同じ流れなんでしょうか?
箕輪:はい。日本には"湯治"の文化もあることだし、ジムやクリニックがあるなら温浴施設があってもいいよね、と誕生したものです。具体的には、カシマウェルネスプラザ内に設置したミネラル湯治施設で......いわば"湯のない温泉"のようなものです。
湯治場内には国産天然鉱石が敷き詰められていて、温泉濃縮液のミストが充満しています。入ると身体が芯から温まりますよ。これによって血行が促進され、発汗によって老廃物が排出され、疲労が回復します。当社の取締役事業部長の鈴木秀樹が、東京の西麻布や鎌倉などで「ルフロ」という温浴施設を経営する三田直樹社長と知り合うことで誕生したものです。
―実は、私たちのメディアのインタビュー編集をしている夏目は、元々、ルフロさんのファンだったらしく「よく芸能人がきていて...」なんて話を聞きました。
箕輪:鈴木も堀江貴文さんを介して三田さんと知り合ったようですね。そして選手の寮に入れたら、選手たちも「これはいい!」となって今回の設置に結びついたと聞いています。ルフロさんも「"スポーツ湯治"のブランドを確立したい」と非常に前向きな形でご協力いただいたようです。
―しかし、スタジアムに温浴施設とは、また思い切ったことを。
箕輪:そうですね。ただ、ルフロさんとの出会いに加え、我々は地域の方との対話のなかで「温浴施設がほしい」というニーズにも気づいていたんです。しかも我々は地域の経済規模が小さいので「ほかの大都市のクラブと同じことをやっているだけではいけない」「常にJリーグの中で最先端のことをやっていこう」という強い思いも持っていました。
スポーツクラブだからこそできる「美容と健康」
―温浴施設の開業は必然でもあったんですね。しかも、カシマウェルネスプラザには「アントラーズスキンケア」もありますよね。
箕輪:はい、エンビロンという会社の技術を取り入れ、丁寧にカウンセリングを行って施術をしています。エンビロンは、皮膚科の専門ドクターがつくった医薬品を化粧品として使うもので、我々は一人ひとりの肌に関わる情報をきめ細かに収集・分析して、それぞれの肌に合わせたスキンケアプログラムを提案しています。
―美容のケアまでしてくれるサッカースタジアムって、私も記憶にないですね。
箕輪:ただ、スポーツとアンチエイジング、スポーツと美容は非常に近しい関係にあるんです。例えば「パワープレート」という機械はご存知ですか?
―宇宙飛行士のためにつくられた機械ですよね。宇宙空間で無重力状態に慣れると筋肉が落ちてしまうので、パワープレートを使って再度、鍛え直す、という......。
箕輪:ええ。三次元の振動によってトレーニング効果だけでなくマッサージ効果ももたらすため、J1のほとんどのクラブに入っています。これなどは、スポーツの分野でもあり、美容にも役立つんですよ。まず、屈伸ができないお年寄りにこの機械を使ってもらったら、筋肉がついて正座できるようになる......といった事例がありました。一方、この機械を使ったダイエットプログラムもあって、なかには半年で30㎏くらい痩せた事例もあります。スポーツチームは、ダイエットや美容の分野にも進出できるんですよ。
―なるほど、スポーツチームがどれほど大きな可能性を持っているかがわかった気がします。スポーツは健康や美容と結びつくんですね。しかも、これをチームがプロデュースすることでスタジアムは平日でも人で賑わって、チームは人気になっていく。その好循環を見た気がします。 しかし30㎏もやせるなんて、うらやましいなぁ。
箕輪:というか、実は半年で30㎏痩せたのは私自身なんです。その後、プログラムを受けずにいたため、だいぶ戻ってしまったのですが......(笑)。
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