編集長がビールの売り子さんの話をきくインタビューの第3回、"元気な元子ちゃん""銀座のホステスっぽい銀子ちゃん"のノリノリトークが続きます。球場にいる"アレ"は売り子の敵だった!? ビールをまとめ買いする男性の熱い?想いとは!? そして最後に聞けた、彼女たちの純な想いとは――?
(聞き手・有川久志 編集・夏目幸明)
ビールの売り子の"意外すぎる敵"!
―困ったお客さんって、具体的には? 例えば男性からしつこく連絡先を聞かれたりとか?
元子:いえ、そうじゃないんです。もちろんなかには「野球も好きだけどお気に入りの売り子からさんビールを買いたい」といったお客様もいらっしゃいます。球場コンコースのテレビの前で、すごい数のビールを置いてる、みたいな。でもこの方たちの多くは私たちにとっても有り難いお客さんなんです。
―え? すぐそこで試合やってるのに、大量にビールを買ってモニターで見てるお客さんがいるんですか?
元子:はい。お気に入りの子がいて、ビールを注いでいる間にお話がしたい、という方、たまにいらっしゃいます。そういう方はビールを何杯も買ってくれます。1杯より4杯買うほうが売り子と長く話せるじゃないですか。
―でも、なぜコンコースで?
元子:私たち、決められたエリア以外でお客さんに飲み物を売ってはいけないんです。でも、基地でビア樽を交換して、コンコースを歩いている間は販売してもいいんですよ。だから......ちょっと話はそれますけど、友達が「今日〇×スタジアムに行くよ」なんて言ってくれたときは事情を話して「何回の裏にコンコースに行くからそこで買って」ってお願いします。
―そんな掟があるのか。
元子:だからお気に入りの子と話したくて、コンコースでビールをたくさん買って、試合はモニターでご覧になるんです。でも、そういうお客さんは私たちにとっても有り難くて、困ったお客さんはまた別の方なんですよ。
―では、そのお答えは!
元子:ゆるキャラです。
―なんで!?
元子:さっき話したアマチュア野球大会、私たちにとっては稼ぎ時なんですが、通路にチアの方やゆるキャラがいると動けなくなっちゃうんです。応援がすごくて逆にビールが売れない、というパターンが一番困ります。例えばウェーブをする団体さんがあって、波を先導する人がいたんです。その時は私、お客さんから呼ばれているのに、先導係の人に「危ないからここにいて!」と5分以上止められてしまって......。あれは困りましたね。
―じゃあ男性からのアプローチは多くないんですか?
元子:会社が売り子を守ってくれています。例えば写真撮影はNGになりました。コンコースや売店の前ならまあいいか、といったグレーゾーンもあるんですが、今は写真撮影に応じた売り子もペナルティを科せられますよ。だから「一緒に写真撮ろう」と言われても「禁止されているんで」と断れるんです。
―ちなみにペナルティって?
元子:出場停止になります。次の日。
―プロの選手みたいだ!
元子:1日でも出られないと、年間トータルの売り上げに響くので、私たちも出場停止は痛いんですよね。
―そういえば今さらなんですが、皆さんの雇用形態ってどんな感じなんですか?
元子:メーカーでも、ビール会社でも、スタジアムでもなくて、私たち売り子を管理している会社に雇用されている形でした。といっても、実は私もどういう会社なのか気にしたことがなかったんで、いまだにわからないんですが......(笑)。
銀子:たしか、派遣社員の扱いになっていたのかな、と思います。
―学生だから儲かればいいですもんね。お客さんの行動パターンはすごくよく見てるのに、雇用形態についてはよくわからなかったって微笑ましいですね(笑)。
売り子さんを惹き付けるならSNS!?
―じゃあ最後に、いくつか聞きたいことがあるんです。何で売り子になろうと思ったんですか? あと、売り子の経験は何かに活きていますか?
元子:私、大学に入ってすぐ、いくつか時給のアルバイトをやったんですが、ちょっと面白くなくて続かなかったんです。そんな時に、友達から歩合の仕事のほうがいいんじゃない? と売り子のバイトを勧められました。私、スタジアムに行ったのは小学生の時に一度だけだったからほぼ記憶がなくて......「売り子」という存在のことも、その時に初めて知りました。
―野球には興味がなかった?
元子:はい、まったく(笑)。
―銀子さんは?
銀子:姉の友達が売り子をやっていて、私がバイトを探している時に、姉からその人のSNSを見せられたんです。その時に「めっちゃ楽しそう!」と感じて応募しました。
―スタジアムに行ったことは?
銀子:1度だけです。私もほぼ興味はなかったですね(笑)。
―ちょっと寂しいな。じゃあ、面接はどんなだったんですか?
元子:やっぱり顔や身長を見ていると思います。あとは実際に樽を背負って「いかがですか」ってやる場合もありますね。姿勢、声の大きさ、あとは表情の作り方とか、すごく細かいところまで見てるそうです。
―最近、注目されているアルバイトだから、倍率も高いんですよね?
元子:そうですね、結構な確率で落としてるそうです。
―じゃあやっぱり、ビールの売り子さんは選ばれた人たちなんですね。ちなみにほかの売り子さんたちは、どんなきっかけで始めた方が多かったですか?
元子:それ、バイトしていたときにもよく話してたんですが......やっぱり"売り子さんってキラキラしてる!"ってイメージに惹かれてきた子が多かったと思います。例えば銀子ちゃんみたいにSNSやテレビで見て憧れた、みたいな。
―なるほど、やっぱり女子はそういうところに惹かれるんですね。ちなみに実際にやってみてキラキラしてましたか?
元子:......。
銀子:......。
元子:......うーん......いえ、まったく(笑)。
"昭和の部活"ノリ! 売り子さんたちの思いとは?
―では、この経験が今後どう役立つかも聞きたいんですが。
銀子:まず、就活で役に立ったと思います。ネタとして面接官の方と盛り上がれました。あと、大学生って普通、30~40代のおじさま方と話す機会ってないじゃないですか。でも私たちは慣れてるから、面接の時に緊張しないんです。これは就活が終わったあと「売り子の影響が強かったのかな」って思いました。
元子:私は強くなれましたね。体力的にも、精神的にも。私、さっき言ったように、時給のアルバイトは全然続かなかったんです。つまらなくて放り投げちゃうというか......。でも売り子の4年間ですごく強くなれたんですね。「接客って大変なんだ」と痛感したり、会社の人にいろいろキツイこと言われたりして、でもそれを乗り越えると達成感があったり、成長を実感できたりして。今も、あのバイトをやっててよかったな、と思っています。
―けっこう厳しいこと、言われるんですか?
元子:チェッカーさんのなかでも一番厳しい人に、1週間マンツーマンでつかれて「なんでこんなこともできないんだよ」ってワーっと言われ続けたこともありましたね。その1週間だけで何キロも痩せました(笑)。でも今は、そういうのを乗り越えて強くなったんだな、やめなくてよかったなって思ってます。
―やっぱりやめる人、多いんでしょうか?
銀子:同期、80人くらいいたのに、1年目の段階で20人くらいに減りましたね。
元子:面接してる人の話だと、最初の2カ月で半分くらいになる、って言ってました。
―衝撃。まさに昭和の部活の世界なんですね。じゃあ最後の最後に、お二人がお客さんに望むことってありますか? お二人は再びスタジアムに立つことはないと思いますが、売り子さんにこう接してあげてほしい、とか。
元子:やっぱり、せっかく私たちの頑張りを知ってもらえたなら、優しく接してあげてほしいですね。残ってるのは一生懸命な子ばかりだったので。
銀子:私たちも、お客さんが本当に野球が好きそうなら試合展開の話をして盛り上がったり、真剣に試合を見ていたら余計なことを話さずにおこうと思ったり......ちゃんと心を込めて接客していました。だからできれば暖かく見守ってあげてほしいですね。
―ここまで読んでくださった方は、きっとそうしてくれると思いますよ。ほかには?
元子:あとは、お客さんにその場を楽しんでほしいですね。
銀子:わかる。
元子:最初に「一生笑ってます!くらいの笑顔でいました」と話しましたけど、お客さんが楽しんでいると、私たちも本当の笑顔でいられるんです。するとお客さんももっと楽しい、そんないい循環ができると思います。やっぱりお互いが楽しんでいてこそ、いい場ができると思うんです。
―なるほど、皆さんはやっぱり、スタジアムの盛り上がりに欠かせない方たちなんだな、と理解できました。元子さん、銀子さん、本当にありがとうございました。そして4年間、おつかれさまでした!
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