今回は編集長が"球場に咲く一輪の花"ビールの売り子さんの話をきいた。スタジアムで見せる笑顔の裏にはどんな戦略、秘密が隠されているのか。売れる売り子と、売れない売り子の違いはどこに?
ぶっちゃけトークを引き出すため、今回は元売り子さんに仮面インタビューを実施、お名前も、元気な元子ちゃん、銀座のホステスっぽい銀子ちゃんとさせていただきました。いつもは生真面目なこの企画、今回はネタがネタだけにノリノリでお伝えします!
(聞き手・有川久志 編集・夏目幸明)
スタジアムを沸かせる?売り子の戦い!
―スタジアムに可愛い女性の売り子さんがいるのって、私が見る限り、日本だけなんです。海外のサッカースタジアムには売り子さん自体がほぼいないし、メジャーリーグの球場も男性が販売している場合が多いんですよ。
元子・銀子:へぇ~!
―そんなわけで、まず皆さんの苦労話から聞きたいんですが。
元子:売り子は個人事業主に近いんです。同期も、先輩も、後輩もお互いライバル視しています。しかも評価は"杯数至上主義"。結果を出さなければ次から使ってもらえません。泥臭い職場だと思いますよ。ほかのバイトと違ってプレッシャーもかかるなか、重いビア樽を背負って階段を登り降りし続けて体力も消耗しますからね。
―売り上げを伸ばす工夫ってありますか?
元子:私は"一生笑ってる!"くらいの笑顔で笑い続けていました。売れなくてきつい時でも、絶対つらそうな顔は見せません。お客様からお声かけいただいたらオーバーリアクションなくらい喜んで、楽しそうに階段を登るようにしていました。
―ビールを売るというより"自分を選んでもらう"ための努力なんですね。
銀子:そうですね。私は所作を美しくするように心がけていました。3年目からバックネット裏の"自分のエリア"をもらえるようになったんですが、ここはシーズンシートや企業が持っている席が多く、目が肥えたお客さん――いわゆるハイクラスの方が多かったんです。だから「いかがっすか!!」というノリでガツガツ売りに行くのでなく、綺麗な所作で注ぎ、丁寧な言葉で接客していました。
―売り子さん、客層まで考えているんですね。それ、ほかの売り子さんから学ぶんですか?
銀子:はい。よく売れる売り子さんは次第に洗練されていくんです。私たちの〇×スタジアムでは、私たちのライバルブランドの〇×ビールが一番売れます。すると自然と、そのブランドの売り子さんは、売るための方法を身につけていくんです。だから私はいつも、同じエリアを担当するライバルブランドの売り子さんが今までに何樽分売っていて、自分は何樽分しか売ってない、と意識していました。
―それ、わかるんですね!
銀子:「チェッカー」という役割の方が"どのブランドを担当する何ちゃんが何樽売って、何時何分に帰った"と記録をつけて管理しているんです。あと、自分の体感でもわかりますよ。"あの子に団体とられたからこれくらいは売ってるはず"とか。
―一団体、まるっととられると大きいんですね?
銀子:でかいです(笑)。私たちはあらかじめ"この通路からこの通路の間の1200席が担当"と決められ、営業を始めます。そして1つのエリアには必ずライバルブランドの売り子さんがいるから勝負になるんです。
―男の子もいるけど、これぞ「女の戦い」ですね。
銀子:そうですよ。お互い、ビールを注ぐときのホースの性能まで意識してますからね。
ホースの性能で売り上げが激減!?
―ホース?
元子:例えば団体で来ているお客さんから一気に10杯、20杯頼まれることがあるんです。そんな時、私はビールを注いで自分の近くにいるお客さんから渡していきますよね。すると私から遠い側にライバルブランドの売り子がやってきて、笑顔で「〇×ビールもありますよ」と声かけしたりするんです。するとお客さんに「じゃあこっちからももらおうか」なんて言われちゃって、20杯売れるはずが10杯しか売れなくなるんですよ。
―逆から攻めてくる売り子さん、強気だなぁ......。
元子:しかもあるライバルメーカーはホースからビールが出てくるのが速いんです。私たちがビールを注いで、どんどんお客さんに渡していくじゃないですか。ライバルメーカーはじゃんじゃん注げるから、20人いた列の13人くらい持っていかれちゃったりするんですよ。
―それ、悔しいだろうなぁ。
元子:最初は私から買おうとしていたお客さんの分も勝手に注いで、お客さんが一瞬困ると絶妙のタイミングで、売り子が「もう注いじゃったので~」なんて、笑顔でビールを渡すんですよ(怒)。注ぐのが同じ速さなら私たちの力量次第ですが、ホースが違うとどう頑張っても無理なんですよね......。メーカーさんは「おいしく飲んでほしい」と考えて、こうやって泡を出して、なんて指導してますが、現実、そうしている子は少ないですよ。というより、ほとんど従っていないかもしれません。
銀子:私も指導には従わず、樽を揺らして振動で泡をつくってます(笑)。
―あの動作、むしろ「この子は一生懸命泡を作ってくれてるんだな」と思ってました。
銀子:でも、振動でいかにおいしい泡をつくるかはこだわっていましたよ。
―そこはマジメなんですね(笑)。じゃあ、大きな団体さんが特定の売り子さんから買っているのを見ると「うっ!」と思うものなんですか?
銀子:はい。「取られたな!」って。
元子:団体のお客様って最初はビールでも、誰か一人がサワーを頼むとみんなつられるように「じゃあ私もサワーで」「私も」となって、最後は全員サワーに変わっちゃうんです。だからビールを売っている私たちにすると、最初の1、2杯をライバルにとられたら巻き返せない。だから1杯目をとられたら「絶対2杯目は自分が行く!」「3杯目、4杯目はないぞ!」と狙いを定めています。
―狙うって、具体的には? そのお客さんの近くにきたら階段を登るスピードをゆっくりにしたり、とかですか?
元子:私は目を合わせますね。あと、お声かけします。「また何回くらいに来ましょうか?」とか、毎回来てくださるお客様には「次はいついらっしゃるんですか?」とか。
―それ、記憶できるんですか?
銀子:もちろん覚えますよ。特に私のエリアはきっちり覚える必要があります。バックネット裏はあまり団体さんがいなくて、多くて4人組くらい。しかも年配の方が多いから、私のエリアは売り上げが伸びづらいんです。だからほかのエリアより丁寧な接客を心がけて常連さんをキープしないと自分の"杯数"があがりません。
―銀座のクラブみたいな話だなぁ。
銀子:例えば企業がシーズンシートを持っている場合、「この通路のここからこのブロックはこの会社」と覚えてます。でもいらっしゃるお客さんは毎試合違うので「いつも〇×社の方たちには本当にお世話になってます!」なんて挨拶する場合もあります。そこから「昨日もたくさん飲んでいただきましたよ」「昨日ってことは〇×専務かな?」なんて話が広がることもありますね。
―ますます銀座のクラブだ。それきっと、今後も使える経験ですよ......。
売り子が後輩に引き継ぐ、美しい目印とは?
―あと最近、お花とか、目印を付けている子が多くないですか?
元子:私も付けてましたよ。やっぱり遠くから「この子だ!」と見つけてもらいたいですからね。同じエリアに同じブランドの売り子が2人いることがあるから、売り子のユニフォームだけじゃ誰かわからないことがあるんです。だから私は赤い花を付けて、お客さんに「赤いお花が私ですからね」と伝えることもありました。するとお客さんも「赤ね、わかった、わかった」みたいな(笑)。
銀子:実はお花の印象って強いんです。私も花をつけていて、自分のエリアを後輩に引き継ぐ時も「私、この色だったから使ってね」と花の色を教えました。「この色の花を付けていればこのエリアのこの常連さんが買ってくれるかも」という私なりの愛情です(笑)。
―売り子さんにはライバル関係だけでなく友情もあるんですね。その証が花とは、何とたおやかな。 逆に、メーカーやブランドにこだわるお客さんもいるんですよね?
元子:それが......意外とそうでもないなって思ってました。
銀子:私もです。
元子::売り子の頑張りのほうが大きいと思います。注いでる時に「本当は〇×ビールが好きなんだけどね」なんて言われることも多いですし。
―それ、売り子さんはうれしいだろうな。
銀子:私はメーカーよりも、いい瞬間にいい場所にいることが重要だと思います。誰かが打ったとか、点が入ったとか、そんな瞬間ってお客さんも気分が良くなるみたいで、そこにいる売り子からビールを買うんです。あとは押し引き。お客さんの目を見ながら笑顔で「いかがですか?」と声をかけると「押しに負けたよ」という感じで買ってもらえることもあります。
―試合展開も重要なんですね。
元子:はい。試合展開次第で確実に次の一杯を売る方法もあるんですよ。
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