東京ヤクルトスワローズの「F-Project」、東京オリンピック・パラリンピック招致委員会に参画し、大阪経済大学で教鞭を執る相原正道氏のインタビュー、第2回は、スポーツのマネタイズに関して話を伺った。
(聞き手・有川久志 編集・夏目幸明)
1971年、東京都生まれ。大学卒業後、社会人として働きながら筑波大学大学院へ入学。修了後は東京ヤクルトスワローズで「F-Project」に携わり、その後東京オリンピック・パラリンピック招致委員会のメンバーとして活躍。2015年より大阪経済大学で勤務し、現在は人間学部の教授を務める。
カジノで日本のスタジアムが変わる!?
― 先ほど国立競技場の話になったので、スタジアムやアリーナの話もお聞かせください。相原さんはスポーツ庁スポーツ産業の成長促進事業「スタジアム・アリーナ改革推進事業 先進事例形成支援」受託事業である大阪市スタジアム・アリーナ官民連携検討会議委員会の座長をしていますね?
※日本政府は日本再興戦略 2016 の官民戦略プロジェクトのなかでスポーツの成長産業化を進めている。なかでもスタジアム・アリーナは飲食・宿泊、観光等も巻き込んで地域活性化の起爆剤になると言われている。
相原:ええ。まずアリーナ改革については「やっと50年に1度の時代がきた」と感じています。
MLB(アメリカ・メジャーリーグベースボール)などにはすごいスタジアムがありますよね。日本にも、これをつくる好機がきていると感じます。
― いま、国がスタジアム・アリーナを改革して「スポーツ産業を我が国の基幹産業に発展させていく」「地域経済好循環システムを構築していく」としています。
相原:それだけでなく、カジノが起爆剤になる可能性があるんです。日本は官も民もカジノをつくった経験がないから、外資系の大資本を入れるはずです。それこそ、東京ディズニーランドができた時のように。
すると、日本のディベロッパーであれば100億円くらいかけるところを、外資は1,000億円単位の投資をして日本人が驚くような施設をつくるでしょう。これによってスタジアムの考え方、収益の出し方が変わる可能性があるんです。
― というと?
相原:例えばイギリスのコベントリー※には、ショッピングセンター、カジノ、ホテル(121部屋)、コンベンションセンター(最大7,000人収容)が併設されたヨーロッパ屈指の複合型スタジアムがあります。そして、ここはカジノから大きな収入を得ているんです。
※イングランド・ウェスト・ミッドランズ州にあるコヴェントリー・シティFCのホームスタジアム、現在はリコーが命名権を取得しており、リコー・アリーナと呼ばれる。
ほかにも、NFL(プロアメリカンフットボールリーグ)のジャイアンツがニューヨークに60,000人収容のジャイアンツスタジアムを保有していますが、これも、横に競馬場があります。
― あ、それは知りませんでした。
相原:競馬場、あるんです。そして彼らは競馬場の収益をスタジアムの運営に充てています。これは、NFLのスタジアムも当初はお金がなくて、工夫をしてお金を稼いでいたことを示していると思うんです。
ならば、日本がIR(Integrated Resort=カジノを含む統合型リゾート)で稼いで、そのお金でスタジアムの運営をしていくのは決して無理なことではありませんよね。これによってスタジアムは変わっていく可能性があると思うんです。
― アルビレックス新潟シンガポールは、シンガポール国内で最大級のクラブに成長しています。その原資は2011年にクラブハウスに併設する形で開業したカジノだった、という話もありますよね。では、スポーツベッティングに関してはいかがですか?
相原:もっと様々な競技でやっていくべきです。香港にはサッカーなど多くのスポーツを扱う
「香港ジョッキークラブ」があります。これは国が管轄している公営の組織だから、賭けようと思うと登録の条件が厳しくて安全です。マネーロンダリング等の犯罪に使われることもありません。カジノを含む統合型リゾートもできたんだから、スポーツベッティングも様々な競技で進められるはずです。
そのようななか、私はJRA(日本中央競馬会)という組織のすごさに着目しています。日本にはこの事業を「博打だ」と捉えている方が多いのですが、JRAは非常に優秀です。毎年約2兆円稼いで、税金を納め、その資金は政治の重要な場面で使われてきました。
また日本人も競馬が好きで、これほど馬に賭けている国民はなかなかいなません。フランスの凱旋門賞やアメリカのケンタッキーダービーなどは、日本人の金で潤っています。この状況をつくりつつ、JRAは不正が1度もなく、デジタルにもきっちり対応しています。馬券をネットで購入できますし、サイバーセキュリティも半端ない。
あのノウハウをもっと活用していけば、世界から「やはり日本は安全だ」と言われるものができるはずです。
状況は整っているんです。日本はサッカーだけでなくほかのスポーツもあって、実績を持つJRAという組織もあります。しかも今の日本人は国の財政の状況も知っているはずだから、国が外貨獲得も含めて儲かるのであれば異論をはさむ人も少ないはずです。
― そこからスタジアム改革、アリーナ改革へのサポートマネーがいくわけですね?
相原:その額は大きいはずですよ。オンラインの賭博サイトが問題になっていますが、これは3,350億ドル、約37兆5,200億円もの市場があると言われています。
ここが合法化されれば、今まで非合法の組織に与えていた利益が国に入ってきます。今までは非合法の組織が運営していたから選手に八百長が持ちかけるようなこともあったようですが、運営母体が国であればそういったこともなくなります。
― サッカーの場合はゴールキーパーが狙われやすい、などと言いますよね。
相原: 賭け事は私も忌み嫌っていたんですが、調べるほど、大きな可能性があるんです。そして企業側もリーマンショックから脱して余裕がある、だからスタジアム・アリーナは今後一気に変わっていく可能性があると思っています。
― 日本版NCAA(2018年に「UNIVAS」と名付けられた)に関してはいかがですか?大学側はスポーツによる大学のブランド力向上、資金調達力の向上などを目指しているようですが。
相原: アメリカのNCAAのシステムをそのまま入れてもダメだということは、今自分の中で確信があります。米国で「大学スポーツ」という考え方が始まったのは19世紀のことです。1852年、ハーバード大学とイェール大学のボート部のレースが開催されており、大学間の"ライバル"の構造ができあがってきたんです。
人気は得ましたが、次第に
「向こうはスポンサーを付けた」
「向こうが監督を付けて勝ったからこっちも監督雇うぞ」
「もうこうなったら選手を雇うぞ」
となって、結局今やっていることは日本のプロスポーツとあまり変わりません。この仕組みを日本にそのまま持ってきて、それが全部いい、なんてあり得ませんよ。歴史的経緯と教育効果を含めて、あらゆる角度からの精査が必要です。
ビッグデータを活用して"ビールが売れるスタジアム"をつくろう!
― 最後に伺いたいのですが、私、「有識者会議」のようなものに出たことがなくて......こういう場で相原先生のような学術的な知識がある方はどんな役割を果たしているんですか?
相原: 例えば、大阪市スタジアム・アリーナ官民連携検討会議委員会だと、セレッソ大阪が「キンチョウスタジアム」(大阪市東住吉区)を募金で生まれ変わらせようとしていて、私はセレッソの方たちを含めて、どういうコンセプトでどんなスタジアムを作るのかを考える有識者会議に出席しています。
そして「会議」というと"何かをまとめる場合が多い"印象があると思いますが、有識者会議ではまず、関係者がどんどんビジョンやアイデアを出し合うんです。グラウンドを使う側、提供する側、スタジアムの内側、外側、それぞれ意見がありますからね。
そんななか、私はこれらを調整するのでなく、例えば海外のスタジアムはこうだ、といった意見を出していきます。また、コンサルタントなどが集客数や収益などの数値的なデータも出してきた時に「この数字は少し大きくないですか?」などと、本当に実現できるかのチェックも行っています。
キンチョウスタジアムの事業は募金だけで成立しているわけではなく、スポーツ振興くじ助成事業でもあるんです。だから施主側も、この会議で話し合われた様々な意見を取り入れてつくっていくんですよ。
― 有識者会議って、理想を話し合って、施主が「ちゃんと話しあったから建てさせてね」と言うような"形だけのもの"ではないんですね。
相原:もちろんです。こういった会議、有川さんがいたら面白いと思いますよ。ようするにマネジメントなんです。施主側はこの会議を無視できない、出席者はもちろん難癖を付けたいわけでなく、「これを実現できたらもっといいスタジアムになる」という案を出していきます。
そして、我々がプライオリティをつけ、あとは施主側の判断に任せる、といったプロセスを踏んでいきます。ここではきっと、有川さんの知識が活きると思いますよ。
― そんなに先輩の顔を立てようとしないでください(笑)。では最後の最後に、相原さんがスタジアムに関して「こんなことをやってみたい」ということはありますか?
相原:それこそ、有川さんとやりたいことです。私、ビッグデータをもっと活用できると思っているんですね。仮にスタジアムで「ビール!」と言った瞬間にドローンが運んできたら面白いですよね。
― MLBのスタジアムで、Wi-Fiを利用可能にした上で飲食システムをアプリにして「店員が席までお持ちします」というサービスを始めています。
相原: それだけではありません。例えば、「ビールはどんな時に売れるんだろう?」と考えた時に、「もしかしたらホームランが出た時?」「2アウトになった瞬間?」といったデータがとれたら面白くないですか。
そして、もし「ホームランが出たらビールが売れる」なら、ソフトバンクホークスのように、ホームランテラス(本塁打が出やすくなるよう設置された外野フェンスの手前のテラス席)をつくればいいじゃないですか。
― こういったデータがあればスタジアムの価値をますます高めていけますよね。
相原:いま、ビッグデータは選手のトレーニングやスカウティングに活用されています。それ自体は素晴らしいことだと思うんですが、実はもっと活用できるんですよ。
いま有川さんはIT企業にいらっしゃいますよね。私はこの「スタジアム×IT」でスタジアムをもっと活性化していきたいんです。こういったデータを取得して活用するまでをパックにして販売したら、マネタイズもできますよね。
― なら、またタッグを組みますか!今日も面白かったです。ありがとうございました!
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