【第1回】スタジアムではぐくまれる「川崎愛」~ なぜ「富士通スタジアム川崎」はこれほど市民に愛されるのか ~ (1/4)
【第1回】スタジアムではぐくまれる「川崎愛」~ なぜ「富士通スタジアム川崎」はこれほど市民に愛されるのか ~ (1/4)

【第1回】スタジアムではぐくまれる「川崎愛」~ なぜ「富士通スタジアム川崎」はこれほど市民に愛されるのか ~ (1/4)

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かつてプロ野球の大洋ホエールズ、ロッテオリオンズが使用した川崎球場の跡地一帯が、今、脚光を浴びている。川崎フロンターレが同地『富士見公園南側』の指定管理者になって以降、『富士通スタジアム川崎』を中心に市民の心を鷲づかみにするイベントの数々を仕掛け、多くの市民が詰めかけているのだ。

同スタジアムの支配人で仕掛け人でもある田中育郎氏に話を聞いた。
(聞き手・有川久志 編集・夏目幸明)

富士通スタジアム川崎
川崎市民の憩いの場として親しまれている富士見公園の中にある川崎富士見球技場。2015年4月に富士通が命名権を取得したことで『富士通スタジアム川崎』となっている。
ホームページ:http://kawasaki-fujimi.com/

田中 育郎 氏
1968年、神奈川県川崎市生まれ。帝京大学、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科を卒業。凸版印刷(株)を経て(株)東京ヴェルディでは営業本部長等をつとめ、2010年10月より(株)川崎フロンターレへ。現在は富士通スタジアム川崎の支配人をつとめる。大学ではラクロス部に所属。社会人でも10年以上『東京ラクロスクラブ』に所属。川崎市在住。

富士通スタジアム川崎 田中支配人
富士通スタジアム川崎 田中支配人

平日を埋めるにはシニア&部活

― スタジアム、様々な予定でぎっちり埋まっていますね。

田中:4~5月、8月末~12月の土日は主に日本アメリカンフットボール協会(以下、アメフト協会)主催の公式戦を開催していただいています。川崎市は「アメリカンフットボールによる街づくり」「アメフトの拠点の強化とアメフトを活用した地域活性化」をうたっており、その拠点となっています。ですので指定管理者としてアメフトを盛り上げるのは当然ですが、アメフト協会利用月以外の土日の市民への還元、そして平日の稼働率向上が腕の見せ所となります。

最初に「平日の昼間にスポーツができる人は?」といくつかの仮説を立てました。その中の一つがシニア層でした。まずはシニアサッカーやグラウンド・ゴルフ(準備もプレーも簡単で、生涯スポーツ活動推進事業の一環として考案されたゴルフ)をプレーしている方たちにアプローチしたんです。現在、月に一度の大会と前日の練習会は不動の人気イベントになっています。

年末には『年忘れグラウンド・ゴルフ大会』が盛大に開催されており、県内外から250名もの参加者が集まっています。他にはシニアサッカーの方たちともいい関係を築いていて平日の昼間のお得意様になって頂いたり、自主事業のポールウォーキング教室も近隣のシニア層から支持を得ています。

― 収益があがりにくいスタジアムもあるなか、貴重な実例になっていますね。部活でも使ってもらえるようになったんですよね?

田中: ええ。まず高校サッカー界にアプローチしようと考えたんですが、川崎市中の学校に一件一件直接営業するのは現実的ではありません。そこで「大きな大会の会場として利用して頂くのはどうだろう?」と親しいサッカー関係者に相談をしました。すると神奈川県協会だけでなく都協会にもインターハイ予選や選手権予選をここで開催してもらえるようになりました。

大会招致がきっかけで認知度が上がり今は多くの高校のサッカー部が平日の練習に使ってくれています。「部活に力を入れたいけどグラウンドが小さい」と悩む高校にはピッタリのようで、大会の会場になるたびにご利用いただく学校が増えているんですよ。

球技場でキャンプ!? 大胆イベントが大盛況!

― フロンターレさんだけに、やはりサッカーに強いんですか?

田中: いえ、別の競技でも様々な展開をし多様なスポーツの活動拠点となると同時に市民への還元をすすめています。例えば大学ラクロス。平日の利用促進の鍵を握ると当初から考えていました。我々が指定管理者になってすぐに関東学生連盟のキャプテンミーティングに行き「富士通スタジアム川崎はラクロスも利用できます」という内容のチラシを配らせてもらおうとしました。

さすがに一団体のPRのチラシを配るのは許可が出ませんでしたが、関係者の方から「出口で配ればいいんじゃないですか?」とこっそりアドバイスをもらえたんです。この助言に従って、すべてのキャプテンの手元にチラシが渡り(笑)その後、考えていた通りにラクロスの利用者が増えていきました。そして、その年(2015年)にまずは大規模な集客試合を誘致し、翌2016年度からは関東学生リーグの開幕戦と開会式を開催し6,000人近い来場者で会場が埋まりました。

結果として関東中の学生ラクロス選手達に対し富士通スタジアム川崎の訴求に成功しました。今では平日の競技別の利用ではラクロスがナンバーワンです。同時開催の市民向け体験会も毎回大好評です。

2016年度 ラクロス関東学生開幕戦
2016年度 ラクロス関東学生開幕戦

― ラクロスは、全日本決勝戦の会場が江戸川区陸上競技場だから"聖地・江戸川"といった言い方もされていましたが...。

田中: 富士通スタジアム川崎は2016年度より高校生女子ラクロスの全国大会の会場にもなっており、新しい聖地と言っても良いかもしれません。もっともっと使っていただきたいですね。「富士通スタジアム川崎」はフィールドと観客席との距離が近く臨場感も有り、雰囲気もいい。だから一度視察にいらしていただくと、関係者や選手の多くが「ここ、いいですね!」と言って頂く事が多いのです。

例えば、指定管理初年度から3年連続でアルティメット(フリスビーを用いた競技。高い持久力・スピード・チームワークが必要な特殊な競技のため『究極(Ultimate)』と名づけられた)の日本選手権決勝の会場としてご利用頂いていますが、最初は当時の女子日本代表監督の方に「とにかく一度見に来て下さい」とお願いして見に来て頂きました。

そして実際にフィールドに立ち「ここでプレーしてみたいです」と気に入っていただいたところから始まりました。こちらも日本選手権と同時開催の市民向けのフライングディスク体験会が毎回100名を超える参加者で賑わっています。フロンターレとのコラボディスクのプレゼントが大好評です。

― 市民向けのイベントも多数開催されていますね。昔の川崎球場を懐かしむものから、子ども向けのものもあります。

田中: 指定管理者としての承認を得る為のプレゼンテーションの準備を始めた段階から基本方針として「地域コミュニティのハブ機能を持ったスタジアム」とうたっていました。その方針に沿って地域の方向けのイベントも積極的に開催しています。単なるサッカー場、アメフト場ではない市民の為の市民が集う「場所」である、と考えれば、スタジアムの使い方は拡がるはずです。

例えば「KID-O-KID(キドキド)」という、6ヶ月~12才の子どものための遊び場があります。ボーネルンドという企業が運営していて、赤ちゃんならハイハイしたり、歩いたり、もう少し大きい子は何かを組み立てたり、体を使う遊びをしたり......これ、親子には絶大な人気を誇っているんですよ。

商業施設の一角に効率よく収まっていることが多いのですが、「これをもっと広いスペース(フィールド)でやったらどうなるんだろう。大きな施設でこの遊具で思いっきり遊びたい子供もいるんじゃ?」と考え、指定管理者になった2015年9月に『無料開放 DAY SUPPORTED BYボーネルンド』と銘打ちフィールド全面にKID-O-KID(キドキド)の遊具を設置してイベントを実施したんです。

すると6000人近い家族連れで溢れかえりました。三連休の最終日だったこともあり連休に子供を遠くに連れて行けなかった保護者の方にとっては丁度良いイベントとなり、どのアトラクションも行列が絶えませんでした。とにかく初年度に一度でいいので地域の皆さまに富士通スタジアム川崎に足を運んで頂きたいという思いでした。そんななかの大盛況だったので成功だったと思っています。

― 富士通スタジアム川崎でキャンプもされていますね。

田中: この一帯は防災拠点で、災害時は市民の皆さんが避難する場所なんです。施設としても「地域の安心・安全な拠点の提供」をうたっています。これを逆手にとって「有事を想定してここで泊まってみましょう!」と家族向けのイベント『親子ふれあい防災キャンプ』を開催しました。

参加者には富士通スタジアム川崎のフィールドに実際にテントを立てて泊まっていただきました。朝は非常食、運動しないと血液の循環が悪くなるという啓蒙の意味も込めてストレッチやヨガも行いました。その他のいくつかの啓蒙活動をイベント化し災害時に役立つ知識を学びながら親子の絆を深めていただくことができて一石二鳥でした。2年連続で開催していますが応募が殺到して抽選になります。

― 自主事業ばかりですか?

田中: いえ、市民の皆さんにとっては誰が主催者か?は関係ないと思っています。自主事業であろうが、お貸しした団体によるイベントであろうが、それが市民にとって有意義であり、参加したくなるイベントならどちらでも良いと思っています。

今はとにかく、様々な団体の方たちとの繋がりを活かしています。提案段階で我々は市に対し「多くの市民にSNSやホームページを使ってイベント情報を投げられますよ」とアピールしていました。

もともと川崎フロンターレは多くのサポーター(市民)に支えられています。後援会会員は4万3千人以上です。SNSには多くのフォロワーがおり、Twitterが50万人以上、Instagramが4万6千人、Facebookは複数ヶ国語(日本語、英語、ポルトガル語、韓国語、タイ語、ベトナム語、中国語)で計7万人、LINEが9万人、YouTubeが1万人。これだけのフォロワーに川崎フロンターレの情報に加えて富士通スタジアム川崎の情報が訴求可能なのです。

― フロンターレは川崎市を中心に何十万人もサポーターを獲得していますからね。

田中: 等々力陸上競技場で年間20回以上ホームゲームを開催しほぼ毎試合2万人以上の来場者を獲得しています。さらに市内5か所のサッカースクールに2,000人以上のスクール生が在席しています。そしてフットサル場である『フロンタウンさぎぬま』を10年以上運営しており施設運営という分野でも実績があります。

その他市内各所で様々な催しを地域、関係者の皆様にご協力をいただきながら企画・運営してきました。ファン感謝デー、新体制発表会、新年の商店街挨拶回り、春祭り、夏祭り、等、多岐にわたります。その結果、Jリーグのホームタウンにおける顧客満足度調査では8年連続で1位を獲得し続けています。

指定管理者を決めるプレゼンでは「これら蓄積された経験、ノウハウを指定管理業務に注ぎ込みます」と宣言しましたが、今のところ提案通りのことを順調に進めることができていると思っています。とはいえ、最初はある程度の危惧もしていました。

サッカーとアメフト、無視できない「力学」も?

― 何か問題があったんでしょうか?

田中: 「富士通スタジアム川崎」はアメフト協会の主催試合のメイン会場です。一方、指定管理者である私達はJリーグクラブ、川崎フロンターレの人間です。すなわちサッカー関係者の我々がアメフトの興行に関わることになるんです。

これは、あくまでも例えですけど、プロ野球の球団が等々力競技場の指定管理になったとして(と仮定して)「フロンターレの試合も盛り上げます!」と言っているようなものなんですよ。だからアメフト関係者の中には「我々の興行の"来場者サービス"や"集客活動"に口を出されたくない」と考える方がいて当然なんです。

― その力学は、外部の人間にはわかりづらいですね。

田中: 指定管理者に指名されたあと、初めてアメフト関係者の皆さんに挨拶に行くときは......正直、かなり緊張感がありました(笑)

― その後は、どのように今のいい関係を築いていったんですか?

田中: アメフトを盛り上げるため、市民の皆様に足を運んでいただき、来場者を増やすために真剣にお付き合いするだけでした。例えば指定管理初年度に私たち指定管理者が主催でXリーグのシーズン開始前に強豪チームの監督やGMお招きしてトークバトルを行いました。ネット中継も行い、初回から好評を博しています。(※現在はXリーグ主催)

Xリーグの数試合では会場にフロンターレのスポンサーでもある川崎ルフロンさん(JR川崎駅前の商業施設)の『ふわふわ』(子どもが中で遊べるキャラクターの形のバルーン)を我々が借りて手配したり、行政や商店街等、関係各所と調整して『川崎アメフト屋台村』を共同開催したり。試合はもちろんですが、「試合に行く道のりも楽しい!」と言っていただけるイベント感を出そうとしました。

これはフロンターレが等々力陸上競技場でのホームゲームで開催しているフロンパークでの考え方をXリーグの試合にも応用したものです。もちろん興行の主催であるアメフト関係者のご理解、共感が無いと実現しません。活動を続けるうち、信頼関係が築けたのではないかと思っています。

― アメフト関係者の皆さんにも「あ、この人達、真剣だし経験も豊富だな」と伝わったんでしょうかね。地域やスポンサーの方々とは?

田中: こちらもいい関係を築けていると思います。例えばこちらも前述の川崎ルフロンさんにご協力をいただき、数試合のハーフタイムに「ボールを蹴ってフィールドゴールに成功すると数万円の商品券を進呈!」というイベントを開催させていただきました。

難しいとは思ってはいましたが中々成功者が出ず、何度もキャリーオーバーが発生し結局、商品券の獲得者が出ない、という事態がおきました。「だったら!」と商品券を同じ日にルフロンで開催中だった抽選会にまわしたら、額も大きかったためか、スタジアムにいらしていたお客様の4人に1人が抽選会に参加したという盛況ぶりで(笑)、まさにWIN-WINになったことがあります。

― こういった臨機応変な対応はイベント開催になれていなければ無理ですよね。

田中: はい。ただし、すべてがすんなり運んだわけではありません。

第2回はこちらから

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