スタジアム・アリーナビジネスのキーマンに話を聞く有川編集長の直撃企画、今回は株式会社電通で東京オリンピック・パラリンピック室 営業推進部長などをつとめ、2017年に株式会社ミッションスポーツを創業した満田哲彦 代表取締役CEOにお話を伺います。
後編では、スタジアムビジネスの意外な未来像を聞くことができました。
(聞き手・有川久志 編集・夏目幸明)
スポーツイノベーション(ニュースポンサーシップ、ニューコンテンツ)、スポーツ転職、#SportsValley(スポーツバレー)を事業領域とする。
ホームページ:https://mission-s.jp/
日本スポーツを盛り上げるのは「リスクテイカー」
― ここからはスタジアムビジネスの話を伺いたいんですが......その前に少しだけ、FCバルセロナでの仕事ぶりについても聞きたいですね。
満田: 実は、行く前は不安だったんです。しかし、FCバルセロナの価値をきちっと認識してスポンサーに伝える、という業務内容は電通でやってきたことと本質的に変わらなかったので、意外とスムーズに働けました。僕の持ってるスキルや経験に対して同僚からリスペクトを感じましたし、インドにコンテンツセールスに行ったり、アジアの企業をバルサに取り入れたり、僕自身もやりがいを感じていました。
バルセロナで生活し、FCバルセロナで働くのはとてもいい機会で、当時の同僚は、メッシのエージェント、現在のプレミアリーグクラブの責任者など、世界中にちらばっています。
― やはり、ここまで多岐に渡る経歴の方はなかなかいませんね。では、2017年に起業したミッションスポーツではどのような業務を?
満田: 「スポーツイノベーション」「スポーツ転職」「#SportsValley(スポーツバレー)」の3本柱を軸に新しいスポンサーシップやコンサルティングを行っています。また、2018年の8月以降には、新サービス・新コンテンツも複数ローンチしたいと考えています。
まず、転職・人材事業に関して言えば「スポーツコンテンツをプロデュースする人」「価値を生み出しお金を集める人」「きちんとスポーツイベントを実施できる人」がスポーツ業界に足りないんです。そして、待遇面も含めこれを改善するには2つポイントがあると考えています。
1つ目は、スポーツコンテンツの価値向上とマネタイズの実施・維持・拡大。もう1つが未開発のマイナー競技も含め、価値を上げていくことです。スタジアム・アリーナビジネスも、新しく建設する話だけでなく、今あるアリーナをどう活性化するか、今あるスポーツクラブの収益性をどう上げていくが大事だと思います。
― 満田さんから見て、今の日本のスタジアム・アリーナビジネスの最大の問題点は何だと思いますか?
満田: 「所有者が自治体」という例が多く、使用者(チームやクラブ)が別だから、意思決定や収益増の計画実施に課題があります。札幌ドームのように、スタジアムの使用頻度が最も高い日本ハムファイターズが「今のままだと収益確保が難しいので自分たちでスタジアムを作ります」となった事例が象徴的です。
逆に横浜スタジアムは横浜DeNAベイスターズが一体経営にしたから、様々な努力・企画をスピーディに行うことができ、黒字化に成功しています。税金で作ったスタジアムを民間企業に全部渡してしまうのは、簡単な話ではないと思いますが...。
もう1つの課題は、テクノロジーとホスピタリティの向上です。特に僕が活性化したい部分は、企業のホスピタリティ。例えばアメリカやヨーロッパの一部では、企業のお金(交際費・社内親睦費)がスタジアムにたくさん流れています。日本人は仕事帰りに取引先や同僚と飲みに行きますよね。
一方、欧米には週末や就業後に取引先や家族とアメフトやサッカーを観戦する素晴らしい文化があるんです。交際費など、社内の一体感をつくるためのお金がもっとスタジアムやスポーツにシフトすれば、スポーツクラブやスタジアムの収益も上がると思います。
電通時代にメルセデスベンツを担当していたんですが、日本のメルセデスベンツはアリーナなどにあまり協賛せず、しかし欧米では多くのネーミングライツを実施している、という現実がありました。欧米では「メルセデスベンツを買うと、こういう所でステータス・ホスピタリティがもらえる」という顧客満足のため、ビジネスマネーの有効活用として、ネーミングライツを実施していたんです。
BtoB、BtoCを繋ぐ手段が、居酒屋・バーからスタジアムに変わっていけばいい。これは、Bリーグの大河さんも同じようなことを仰っていたと思います。
― テクノロジーはいかがですか。
満田: 現場では投資とリターンのバランスが重要視されます。そんななか、日本では「スタジアムのテクノロジーに投資してもリターンが少ないんじゃないか?」というイメージがあるんです。これを変えるには、まず自治体が中心になり、リスクとって投資するのがいいと思います。
例えば、アトランタやダラスのアリーナみたいに1,000以上のモニターが同時にコントロールできるとか、CRMが効果的にできる、そして、これが経済的にもペイすると見えてくれば、投資事例も増えてくると思います。そして、国立競技場も含め"スタジアムへの投資は回収できるんだ"と実感できれば横展開できるはずです。ただし、そこは鶏と卵ですよね。
― 日本でも成功事例ができると変わってくると。
満田: はい。まだ投資と回収のリスクをとる方が、あまり出てきていませんが、例えばジャパネットHDの長崎新スタジアム構想には期待できるかも、と思っています。
― 満田さんは、欧米にリスクをとる方がいて、日本にいない理由は何だと思いますか?
満田: いえ、アメリカやヨーロッパも歴史をふまえて確信ができたんだと思います。最初は誰かがリスクをとり、損もしてきたと思うので、プロセスは同じではないでしょうか。そんな中、海外ではビリオネアが頑張ったかもしれませんが、日本では自治体の方に頑張っていただく部分が必要かな、と。
自治体と議論を深めるうちに仮にバスケットボールを中心とした体育館を作る場合、「宙づりの大型ビジョンをつけてもバスケットのためにしか使えないからダメなんじゃないか」とか。でも大型ビジョンは音楽イベントや他の競技にも使えます。
自治体の方に決断していただくことも重要ですが、そのスタジアムやアリーナをきちっと継続的に使用する計画と実行も必要なんです。まあ、それがなかなか難しいのですが。
人口5万人の自治体でも、黒字のスタジアムは持てる!
― 海外のスタジアムの成功事例があれば教えて下さい。
満田: 勉強になったのは、アトランタにできたメルセデスベンツスタジアム。驚いたのは隣の(1996年のアトランタ五輪に使った)ジョージアドームをまだ30年経ってない段階で壊し、新スタジアムに移管してもペイさせる発想力です。NFLのアトランタファルコンズとMLSのアトランタユナイテッドの本拠地、プラス、音楽コンサート、この3つで回しています。
もちろんこれは自治体のリスクテイクもあって、税金を使うため、議会の承認もとった上でのこと。同時に、市民と自治体と企業が同じ目的で協力しあって、あんなとてつもないスタジアムを作ったわけです。大型円型ビジョンや制御システムも最新で、洪水が来た時にはアリーナの下で貯水できるなど、色んな面で工夫してましたね。
― 日本のスタジアムでは?
満田: ベタですが(笑)、埼玉スタジアムに思い入れがあります。埼スタは日本最大のサッカー専用競技場です。やはり見やすいし、試合のクオリティも上がります。サッカー専用の競技場にすると、陸上や他の競技ができない、と問題になりますし、その気持ちもわかりますが......僕の考えは少し違うんです。
例えば、ラグビー専用、バスケット専用競技場は短期的にはペイしなさそうですが、実際はそのスポーツ専用にしたほうが、日本全体でパイをうまく配分できる。地元の方の使用は総合運動場、全国から聖地としてその競技の大会・リーグを誘致するなら専門競技場、とわける。
陸上の聖地は日本のここ、バスケットの聖地はここ、サッカーは、と展開したほうが競技と大会のクオリティが高まり、結果としてペイしやすくなる、と考えています。
― なるほど。
満田: 埼スタは「駅から遠い」。しかし強いコンテンツがあるから、試合日になると近くのイオンにも人が入るわけです。だったら近くにホテルやショッピングモールも作って、駅も作って、泊まれて、サッカーも含め数日間そこで楽しめる埼玉県のドリームプレイスにしたらすごいことになると思います。
― 日本のスタジアムに一番足りないものは何だと思いますか?もし満田さんが施主に提案するとしたら?
満田: コンテンツ発想からスタジアムやアリーナを作っていけば、ペイするところが出てくると思います。これは、信頼しているBリーグの社長からの意見を参考にしていますが......5万人、10万人の自治体に、3,000人ぐらいのアリーナがあって、B2クラスの地元バスケットクラブや室内競技クラブのフランチャイズがあり、音楽コンサートもまめに行える音響システムを設置すれば、実際にペイするんじゃないかと思うんです。地元にコンサートに来てほしいし、皆さん、コンサートだったら3,000円とか5,000円払いますよね。
ただ、今は市民会館しかなく、ここは音は悪いし、施設は古いし、キャパも小さい。エンターテイメントのコンサートが3,000人から5,000人規模で実施できるクオリティの高い音響施設があって、かつ、ここを本拠地にするチームが2つぐらいあれば、地域にとっていい影響がある上に、ペイする可能性もあるんじゃないか、と思うんです。
しかし、今はそういうアリーナが足りない。座席を可動式にして、座席の横にホスピタリティゾーンを作るなど効率的にやっていけばペイするし、スポーツコンテンツも地域に根差してくるんじゃないかと思うんですが。
― 我々はどうしてもスポーツ側から捉えてしまうから「なかなかペイしない」と考えがちですが、エンターテイメント側から捉えると「今、コンサートができるホールが少ない」という現状もあるんですね?
満田: そうなんです。だから音が良く、かつ、横のバックヤードでパーティーができるところを地元企業に作ってもらえば、地元全体が儲かると思うんですよね。
― 面白いです。あと、スタジアムのテクノロジー向上に関しては、もっと異業種が連携していくと良いのでは、と感じます。例えば教育や観光も取り入れるとか。スポーツビジネスは当然、健康と結びつくので、連携すれば街の機能を広げていけるのでは?と感じますが、いかがですか?
満田: あると思っています。特にアリーナを回ると、地元のお年寄りが健康に関する施設を、結構、使っているんですよ。
例えば、自治体が2020年にどこかの国の事前キャンプを誘致してムーブメントに乗りたい場合、ITスケジュール管理を導入して「キャンプ期間は海外チームが使う」「その後、地元の方が使う」とバランスを考えれば効率的に解決できるはずです。
大企業とベンチャー・中小企業・クラブを結ぶ「オープンイノベーション」を行う!
― 起業したミッションスポーツにおいては、具体的に、どのような展開を考えていますか?
満田: 創業の目的であるスポーツのイノベーションを興すべく、複数のプロジェクト・コンテンツ・サービスを作成していて、順次、ローンチしていく予定です。あと直近では、スポーツビジネス拠点の#SportsValley(スポーツバレー)を作りました。これは、渋谷千駄ヶ谷にスポーツベンチャー・スポーツクラブが集い、活性化する目的を持っています。
今、スポーツ事業に携わる方って個人や小規模事業者さんが多い。一方で僕には大企業も含め色んな相談が持ち込まれているので、これを結びつけ、スポーツでのソリューション機能を拡大したいんです。そんな、一石三鳥みたいなことを考えています。
― まさにオープンイノベーションですね。最後に、我々に期待することをお願いします。
満田: 実際にスポーツでアカウントを作り、売り上げを立て、人を雇い、活性化する、リアルマネタイズ・リアルスポーツビジネスを期待します。
― 情報発信やコンサルだけじゃなく、実業に繋げていくと?
満田: ええ。今、スポーツビジネス、特にスタジアム・アリーナビジネスがバズワードになって、勉強会もたくさん開催されています。そんな中、「オリンピック終わったら熱が冷めるんじゃないか」と言う方がいる。
しかし、2002年の日韓ワールドカップの時も「こんなに沢山スタジアムを作ってサッカー界はダメになる」と言う方がいたなか、新潟や浦和は4~5万人動員し、Jリーグは拡大してサッカーの裾野が広がり、日本代表も継続してW杯に出場しているじゃないですか。2002年以降、レガシーとして、サッカー文化は拡大したわけです。
なので、2020年以降を見据えて、評論家目線ではなく、実業としてスポーツでマネタイズをしていただきたいな、と。それがある意味、一番の社会貢献だと思います。
これから、スポーツで稼いでいく、いろんな人を雇っていく、拡大していく、これを堂々とやっていくうえでも、僕らはイノベーションにこだわっていきましょう!
― 力強いお言葉、ありがとうございました!
(左から満田 代表取締役CEO、有川 編集長)
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