
英国で「国家の恥」と評されている「ヒルズブラの悲劇」の最終報告書が公表され、退職済みの警察官12名がもし現在も在職していた場合*、重大な職務違反で訴追されていたであろうことが判明した。
*英国では法制度上、退職した警官には処分を下せないが、当時の状況、責任の所在を明らかにし、本来重大な処分の伴うものであることを公的に定めるため、「当時の警官がもし現在も在職していた場合」という仮定の下で示されている。
366ページに及ぶ最終報告書には、独立警察行動監視局(IOPC)とこの惨事の調査チームであるオペレーション・リゾルブ(Operation Resolve)が行った、ヒルズブラの悲劇と事件発生直後の警察の責任範囲についての広範な調査概要が記されている。
ヒルズブラの悲劇は、1989年4月15日にヒルズブラ・スタジアムで開催された、FA杯準決勝のリヴァプールFC対ノッティンガム・フォレストFC戦で発生した惨事で、収容人数を大幅に超えるリヴァプールサポーターがゴール裏スタンドに押し掛けたことで、結果的に97人が命を落とした。さらに、このような大惨事が起きたにも関わらず、警察が責任をサポーターに転嫁するなどの組織的な隠蔽行為を行ったため、問題は長期化している。
IOPCが公表したこの最終報告書は、2012年に公表されたヒルズブラ独立調査委員会(HIP)の報告書の内容を補完、発展させたものである。両調査では、100万ページ以上の文書と数百時間の映像・音声資料が提供されたが、これは「死亡した全員が違法に殺された」との結論を出した、2016年のゴールドリング検視審問を裏付けることになった。
今回実施した調査でも、サポーターの行動が事故の原因または一因となったとする警察の報告を裏付ける証拠は一切見つからなかった。IOPCは、サウス・ヨークシャー警察(SYP)が試合の警備計画、事故発生時の対応、トラウマを抱えたサポーターや大切な人を捜索する家族への対応のそれぞれにおいて、「根本的に失敗した」と結論づけた。
報告書によると、SYPが責任を逃れるため、事件後の調査や審問で自己保身的な言動をとった証拠が数多く存在している。また、証拠の中には、犠牲者遺族やこれまでの調査が繰り返し否定してきた、「サポーターの行動に問題があった」という主張も含まれているという。
IOPCは今回初めて、事故後の調査及び、その後の政府による公式調査の補助を任務としていた、ウェスト・ミッドランズ警察(WMP)の行動についても検証を行ったが、その結果、WMPによる調査は「極めて不十分で、範囲が狭すぎる」との判断に至った。さらに、WMPの2人の上級警察官の行動が、SYPに有利になるような働きをしていたことを示す証拠も認められている。
IOPCは、犠牲者遺族等から訴えのあった352件の不服申し立てと職務違反の疑いのうち161件を個別に調査したが、この中の100件以上が、試合運営や事故後の対応の中心的役割を担っていたSYPおよびWMPの上級警察官の行動に関するものだった。主な調査結果として、これらの上級警察官がもし現在も在職していた場合、重大な違反行為で説明責任を問われていたであろうことが明らかとなった。対象となった言動や行為は以下の通りである。
- 職責から逃れるためにサポーターに責任を転嫁しようとした当時のSYP警察本部長の行為
- 試合の準備と警備の任務、事故発生時の対応、そして責任転嫁を試みた当時のSYP警察官9名の自己保身的な言動
- サポーターより警察が有利となるよう偏向していた疑いを含む、WMPの副警視総監および刑事警視長による事故捜査の指揮
さらに報告書では、「試合の計画・準備」、「WMPによるSYPの行動調査」、「事故後の供述内容」、「遺族や生存者への対応」に関する92件の申し立てが、既に認められているか、本来説明責任を問われるべき事例であったと概説している。
また、警察官の供述書のうち327件が修正されていたことも判明したが、これはSYPが政府の公式調査やWMPに提出する証拠を統制したという、自己保身のための行為であり、これまでに明らかになっていた数より100件以上多い。
今回の報告書では12名の警察官の名前が挙げられているが、全員が2012年の本格的な捜査開始前に退職しており、中には既に亡くなった者もいて、責任を問うことが困難な状況にある。2017年には法が改正され、元警察官でも職務上の責任を追及されるようになったが、これは遡及適用されない。
遺族らは2017年以降、いわゆる「ヒルズブラ法」を求めて活動してきた。この法律は、"誠実開示義務"に基づき、公的機関が惨事の調査に協力することを義務付けるための法であり、違反した場合は刑事制裁を科される可能性がある。2024年9月、キア・スターマー首相はこの法案を議会に提出することを約束し、1年後、ついに実現した。
正式名称「公的機関(説明責任)法」であるこの法律は、「率直性、透明性、誠実性」の義務を課すことで、公的機関による隠蔽行為を抑止することを目的としている。
新たな報告書について、IOPCのキャシー・キャシェル副局長は次のように述べた。
「違法に殺された97名とその遺族、事故の生存者、そして深刻な影響を受けたすべての人々は、事故の前、当日、そしてその後のいずれにおいても、繰り返し裏切られてきました。
まず、試合準備におけるサウス・ヨークシャー警察の罪深い怠慢、事故発生時の事態把握の根本的失敗、そしてリヴァプールサポーターに責任を転嫁しようとした組織的行為により、遺族や生存者はほぼ40年にわたり耐え難い苦痛を味わうことになったのです。
その上、ウェスト・ミッドランズ警察による不可解なほど限定的な調査により再度失望させられ、これらの過失をもっと早く明らかにする機会も逸しました。彼らが36年以上もの間、耐え忍ばなくてはならなかったことは、まさに国家の恥といえます」
さらに、キャシェル副局長は次のように付け加えた。
「このたびの公表は、我々の調査が裏付けを行ってきた、英国法史上最長の検視審問や多数の刑事裁判を含む、長期プロセスの集大成です。
深い影響を受けた方々にお伝えしたとおり、このプロセスには時間がかかりすぎていますが、長年にわたり闘い続けてきた人々は本来、もっと報われるべきなのです。
もっとも、今回我々が調査した組織は、今日の姿とは異なることを忘れてはなりません。1989年以降、警察は多くの変化を遂げてきましたが、近い将来、遺族と生存者のたゆまぬ働きかけにより、公的機関説明責任法案がすべての公務員に誠実な対応を義務付ける日が来るでしょう」
Copyright: Xperiology/TheStadiumBusiness.com - reproduced with permission.
元記事 - Hillsborough police would have faced proceedings over conduct

THE STADIUM HUBの更新お知らせはこちらをフォロー
Twitter:@THESTADIUMHUB
Facebook:THE STADIUM HUB
