死後のスポーツの在り方 - ファンやサポーターの慰霊の重要性
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ウェストハールデ記念公園内の『アヤックス・メモリアル・フィールド』のイメージ
ウェストハールデ記念公園内の『アヤックス・メモリアル・フィールド』のイメージ (画像:Funeral Products)

多くのサッカーファンが、「死ぬまでクラブを応援している」とスタジアムでチャントし、クラブに一生の忠誠を誓うが、近年は死してなお、愛するクラブへの忠誠を示したいと考えるファンやサポーターが増えてきている。

2000年代半ばにアルゼンチンのCAボカ・ジュニアーズがクラブカラーの青と黄の棺を販売し、南米で最も有名なクラブになった時、これを病的なマーケティング戦略として冷ややかに嘲笑した者たちも少なくなかった。だが、その後、世界中のクラブがファンやサポーターの慰霊を重視している事実を見れば、ボカ・ジュニアーズは決して間違っていなかったことは一目瞭然だ。

2014年、スペインのFCバルセロナはラス・コルツ区の墓地に、骨壺500個を無料で納骨可能な霊廟を開設。また、現在進行中の本拠地『カンプノウ』改修計画の初期案には、3万個の骨壺を納骨可能な霊廟の設置も含まれていた。

バルセロナのダービー相手であるRCDエスパニョールも、本拠地のRCDEスタジアム内に「熱狂的なファン」を対象にした納骨室を開設。骨壺を1個ごと納骨可能な個室型と4個をまとめて納骨可能な4人部屋型がある。

RCDEスタジアムの納骨室
RCDEスタジアムの納骨室 (画像:RCD Espanyol de Barcelona)

スポーツ x 葬儀業界の成長

ファンやサポーターの慰霊に関する商品やサービスの分野の成長は、スポーツクラブにとって様々な意味で重要になってくるだろう。

もちろん、多くのファンやサポーターの要求に応えることがクラブへの収入増に直結するということもある。例えば、米国では葬式や慰霊といった、いわゆる葬儀業界の市場価値は2020年だけで287億米ドル(約3兆1,374億円)規模へと成長した。

また、英国では毎年60万回の土葬または火葬が行われているが、生活協同組合(Co-Op)の葬儀サービス部門であるCo-Opフュネラルケア(Co-Op Funeralcare)の集計によると、葬儀で最も流された音楽は、BBCの人気サッカーハイライト番組『マッチ・オブ・ザ・デイ(Match of the Day)』のテーマ曲や同じくBBCのフォーミュラ1(F1)中継で長年親しまれてきたフリートウッド・マックの名曲『ザ・チェイン(The Chain)』など、スポーツ関連曲が多いこともわかる。

だが、葬儀関連商品やサービスの開発に対し、クラブやスタジアム/アリーナ運営会社が金銭的なリターンを念頭に置くのは自然なことではあるものの、スポーツと葬儀業界の協働の根底には、やはり社会における意識の高さというものがある。

大事な人が他界してしまった後も、その人に思いを巡らせることができる場所や手段を提供することは、クラブにとっては長年応援してくれたファンやサポーターへの恩返しであり、その後も何世代にもわたり特別な関係を構築することに繋がる。

そして、COVID-19というパンデミックが猛威を振るい、多くの家族が大事な人を失ったここ18か月間で、ファンや地域住民が形成するコミュニティに対するスポーツクラブの社会的責任への注目度は、過去にないほど増したといえるだろう。

2020年、COVID-19感染防止策として無観客試合の開催を余儀なくされた野球の北米最高峰、メジャーリーグ・ベースボール(MLB)では、複数の球団がガラ空きの外野席にファンの写真ボードを置くキャンペーンを実施。多くのファンが他界した家族や友人、そしてペットの写真を球団に送り、写真ボードにして外野席に置く権利を購入した。特にシアトル・マリナーズは、『マリナーズ・シート・フリート(Mariners Seat Fleet)』(写真下)というキャンペーンで約1万5,000人分の写真ボードを販売し、売り上げの中から7万米ドル(約765万円)以上をCOVID-19で家族や友人を失った人々のために寄付した。

シアトル・マリナーズの『マリナーズ・シート・フリート』キャンペーン
シアトル・マリナーズの『マリナーズ・シート・フリート』キャンペーン(画像:Seattle Mariners)

MLB球団が実施したキャンペーンは、他界したスポーツファンのために遺族や友人が選択できる慰霊の手段の一種だが、世界では他にも多くの方法でファンやサポーターの慰霊が行われている。

例えば、オランダのアイントホーフェン市に本社を置くフュネラル・プロダクツ(Funeral Products)社は、スポーツファンの他界を悲しむ遺族向けにクラブロゴやブランドが入った骨壺や生分解性の慰霊商品、故人の思い出の詰まった宝石や写真立てなど、幅広いサービスや商品を提供している。

新しいアプローチ

故人の遺灰をスタジアムのピッチに撒いてほしいという遺族(と生前の故人)の願いは、昨今はピッチコンディションの維持と管理に多大な労力と資金をかけているクラブに拒否されるケースが多くなっているが、ファンの心情を理解し、専用の記念庭園やメモリアルウォールで他界したファンの遺族の思いを汲むクラブが増えてきていることも事実だ。

オランダのAFCアヤックスは、葬儀サービスのPCウティヴァールト(PC Utivaart)社とのコラボレーション企画で、ウェストハールデ記念公園内にクラブサポーター専用霊園の『アヤックス・メモリアル・フィールド』を開設した。

アヤックス・メモリアル・フィールドには、1934~1996年までアヤックスが本拠地としていたデ・メール・スタディオンのピッチの芝が移植されており、サポーターだけでなく、過去にアヤックスに所属した選手の遺族も故人の遺灰を撒くことができるのが特色だ。フュネラル・プロダクツによる防水仕様のクラブ専用納骨堂も2021年度中に設置される。

イングランドでは、サッカーのプレミアリーグ(1部)のレスター・シティFCが、本拠地『キングパワー・スタジアム』の改修に伴い、新たに記念庭園を開設すると発表した。

レスターは、2018年10月27日に当時のオーナーのヴィチャイ・スリヴァッダナプラバ氏がスタジアム付近で発生したヘリコプター事故で他界したことを受け、2019年に追悼庭園(Vichai Srivaddhanaprabha Memorial Garden)を整備したが、スタジアム改修計画には新たな記念庭園の整備も組み込まれている。改修後にオープンする記念庭園は、現在スタジアム南東部にある追悼庭園同様、一般公開される予定だ。

キングパワー・スタジアム南東部のヴィチャイ・スリヴァッダナプラバ追悼庭園
キングパワー・スタジアム南東部のヴィチャイ・スリヴァッダナプラバ追悼庭園(画像:Leicester City FC)

同じくプレミアリーグのバーンリーFCは、2014年にサポーターのピーター・ブリッグス氏がクラブのOB会であるバーンリー・フォーマー・プレーヤーズ・アソシエーション(Burnley Former Players Association)およびクラブと協議し、第一次世界大戦の兵役で命を落とした6人の選手たちを追悼する目的でターフ・ムーア・メモリアル・ガーデン(Turf Moor Memorial Garden)を整備した。

関係者の数年にわたる努力と資金集め、そしてクラブによる3万ポンド(約453万円)の寄付などの支援が実を結び、ターフ・ムーア・メモリアル・ガーデンは2018年、バーンリーFCの本拠地スタジアムであるターフ・ムーアのジミー・マッキルロイ・スタンドの向かい側にオープンした。ファンやサポーターが故人に思いを巡らせるだけでなく、340g以下の火葬済みの遺灰であれば無料で撒くこともできる。また、記念碑や墓石のための銘板を購入することも可能だ。 まさにファンやサポーターとクラブの近さを表す一例といえるだろう。

バーンリーのターフ・ムーア・メモリアル・ガーデン
バーンリーのターフ・ムーア・メモリアル・ガーデン (画像:Turf Moor Memorial Garden)

思い出が生き続けられるように

他にも、プレミアリーグのアストン・ヴィラFCは、他界したファンやサポーターの遺族とクラブとの間で経路に関する事前合意があれば、本拠地『ヴィラ・パーク』の真横を葬列が通ることを許可している。

また、ヴィラ・パークの北スタンドの受付の飾り戸棚には、故人を追悼する記録帳が置かれ、各シーズン閉幕時にはクラブの専属牧師であるジョン・グラント神父が慰霊祭を行ない、追悼曲の『ホルト・エンダーズ・イン・ザ・スカイ』が流れる。

2021年8月には本拠地『グディソン・パーク』にサポーターを迎えるエヴァートンFCも、ここ1年半の間に他界したファンやサポーターの写真と名前を紹介する追悼映像を制作し、クラブのSNSチャンネルで配信した。

世界中で有観客興行が再開する中、いつもは隣の席にいた顔馴染みのサポーターがいないスタジアムの風景は、多くの観客に喪失感を与えることになるかもしれない。

だが、ファンやサポーターの献身的な姿を忘れないよう、遺族や故人を知る者たちとの絆を深めようとするクラブが増え続けるかぎり、死さえもサポーターとクラブの関係を分かつことはできないだろう。

※金額はすべて2021年8月下旬で換算

Copyright: Xperiology/TheStadiumBusiness.com - reproduced with permission.
元記事 - Sport after death: the importance of fan memorials

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