編集者コラム第22回 ~ 等々力フロンパークで第1回かわさきSDGsランド開催 ~
編集者コラム第22回 ~ 等々力フロンパークで第1回かわさきSDGsランド開催 ~

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2022年6月18日(土)、J1・川崎フロンターレは、富士通川崎工場、川崎市公園緑地協会、川崎市(環境局・中原区役所)と共に、持続可能な開発目標(SDGs)について楽しみながら学ぶことができるイベント『第1回かわさきSDGsランド』を初めて開催しました。子どもも大人も楽しんでSDGsを、そして未来を感じる空間。日本のスポーツシーンでは前例のない規模で実現した画期的なイベント取材しました。

(取材と文・武冨遼子 構成・筑紫直樹)

(写真:Naoki Tsukushi/THE STADIUM HUB)

SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称で、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標のことを指します。もう日本でもすっかりお馴染みとなった「SDGs」は、地球環境から社会的な豊かさに関するものまで17のゴール・169のターゲットで構成されており、「地球上の誰一人取り残さない」ことを目指しています。近年の日本では、多くの自治体や企業がSDGsに積極的に取り組んでおり、その活動を表彰する『ジャパンSDGsアワード』等も実施されています。

川崎フロンターレでも、クラブを創立した当時から現在のSDGsに繋がる様々な活動を継続的に行なってきました。例えば、障がい者や引きこもりの方々に就労体験の場を提供し、働く楽しさを体感してもらえるような活動や、サポーター参加型の清掃活動を通じて多摩川に親しみを持ってもらうための体験学習等が挙げられます。

そんな川崎フロンターレが長年続けてきたSDGs活動はもちろん、同じように川崎市内で行われている様々なSDGs活動についても、より多くのサポーターや地域住民に知ってもらえるよう企画されたのが、今回の『第1回かわさきSDGsランド』になります。

キックオフ5時間30分前でも来場客が続々と
キックオフ5時間30分前でも来場客が続々と(写真:Naoki Tsukushi/THE STADIUM HUB)

実はこれまでにも川崎フロンターレ、川崎市(環境局・中原区役所)、公園緑地協会、富士通と合同で『CC等々力エコ暮らしこフェア』と呼ばれるイベントを開催してきました。今回はその発展版のイベントとして、等々力陸上競技場周辺には「CC等々力環境エリア」、「経済エリア」、「社会エリア」がそれぞれ設置され、全部で43ものブースが出展されました。いくつかピックアップし、ご紹介させていただきます。

【楽しくスポーツ体験!】

富士通企業スポーツ推進室の協力のもと、現役の選手にアドバイスをもらいながらアメフトのQBパスとバスケシュートを体験できるブースとなっています。それぞれ男子アメリカンフットボールチーム「富士通フロンティアーズ」と女子バスケットボールチーム「富士通レッドウェーブ」の選手が数名ずつ来場し、参加者との交流を楽しんでいました。翌日に試合を控えている選手もいたそうですが、全力で参加者のプレーをサポートして盛り上げている様子が印象的でした。どうしても人々の交流が制限されてしまうことが多いこのご時世ですが、スポーツを通じて一緒に楽しい気持ちになれる良い機会だったのではないかと感じました。また、同じブース内では車椅子バスケの体験会も行われていました。

フロンティアーズの選手たちと一緒に遊ぶ(写真:Naoki Tsukushi/THE STADIUM HUB)
フロンティアーズの選手たちと一緒に遊ぶ(写真:Naoki Tsukushi/THE STADIUM HUB)

【スポーツ×共生社会】

ここでは、パラスポーツVRや感覚過敏疑似体験VRの展示、バリアフリーマップの配布が行われていました。バリアフリーマップは、誰もが安心してスタジアムに来てもらうことを目的として、武蔵中原駅、武蔵小杉駅、新丸子駅から等々力陸上競技場への徒歩ルートに対して、バリアフリーの観点(スロープの有無、段差有無、多目的トイレ場所など)から作成されたものです。感覚過敏疑似体験を含め、1人でも多くの人が障がいについて理解を深められるような内容となっていました。

富士通企業スポーツ推進室の田中雄輝氏は、今回の取り組みについて次のように話してくれました。

「スポーツ体験コーナーでは、SDGsゴールである「質の高い教育をみんなに」という観点から、来場するお子さまに、現役のアメリンカンフットボールや女子バスケットボールの選手がパスやシュートのやり方をやって見せたり、教えたりする機会を提供いたしました。当日はたくさんのお子さまの笑顔を見ることができ、選手たちも楽しそうにしていたのが印象的でした。

また、スポーツ×共生社会コーナーでは、SDGsゴールである「住み続けられるまちづくりを」の観点から、これまでに富士通とフロンターレが一緒に取り組んできた感覚過敏疑似体験VR、バリアフリーマップなどの展示を行い、どなたでも安心してスタジアムにご来場いただき、スポーツ観戦を楽しんでいただける社会を目指し、スポーツを通じて、課題解決に取り組んでいることを発信いたしました。

等々力には2万人を超える多くのファンが来場しますし、お子さまもたくさんいらっしゃいます。 これはサッカーには人を惹きつける魅力と発信力があるからだと思っています。 その発信力ある試合会場周辺で今回のようなイベントを企画することにより、普段はSDGsに関心がない方でも、社会課題に触れる機会となり、結果として多くの方に「社会課題の自分事化」の機会を提供することができたのではないかと思っています」

参加者に説明する田中氏(左から3人目)(写真:Ryoko Taketomi/THE STADIUM HUB)
"参加者に説明する田中氏(右から3人目)(写真:Ryoko Taketomi/THE STADIUM HUB)

【お気に入りの布でつくろう!マイみつろうラップbyエシカルシーアトレ川崎店】

このブースに協力しているエシカルシー(Ethical&SEA)は、環境や社会に貢献する、いわばエシカルな商品を厳選して販売しているセレクトショップです。近年、環境に配慮したことを謳っている商品は増えてきていますが、ここではオーガニック成分配合やプラスチックフリーといった具体的な効果をラベル化して分かりやすく示しています。

このイベントでは「マイみつろうラップ」の作成体験会を実施していました。多くの人が食材・料理を保存する時に「ラップフィルム」を使用すると思いますが、使い終われば捨ててしまうのが一般的です。このみつろうラップは、ミツバチの巣を構成している蝋(ろう)を精製した「みつろう」を布に染みこませるだけで簡単に作れ、水洗いして繰り返し使うことができます。

このブースの担当者の方は、「プラスチックごみをゼロにするのは難しいですが、このみつろうラップのように身近な製品から1つずつでもエシカルでいいものに替えていくことが大事なのではないかと思います」とお話ししてくださいました。

(写真:Naoki Tsukushi/THE STADIUM HUB)
(写真:Naoki Tsukushi/THE STADIUM HUB)
かわいい柄の布でマイみつろうラップを作れる(写真:Ryoko Taketomi/THE STADIUM HUB)
かわいい柄の布でマイみつろうラップを作れる(写真:Ryoko Taketomi/THE STADIUM HUB)

【武蔵小杉スクエアフードドライブ】

武蔵小杉東急スクエアの協力のもと、食品ロスを少なくするための取組としてフードドライブブースも出展されていました。提供できる商品の条件として、「賞味期限が明記され、期限が2ヶ月以上残っているもの」「常温で保存できるもの」「未開封のもの」の3つが挙げられています。筆者がブースを訪れた14時30分時点では3人ほどが来場し、缶詰やカップ麺等を寄贈していました。これらの寄贈品は、かわさきこども食堂ネットワークに提供されるとのことです。

【床ワックスをリサイクル!!】

本来なら廃棄物となる剥がした床ワックスの廃液から消臭剤やエチケット袋などの製品を作るリサイクル工程を体験できます。このブースの協力企業でもある和光産業は、清掃による水と廃棄物を削減して環境に優しいサービスを行っていることから、川崎市より『低CO2川崎ブランド』にも認定されているそうです。

ブースではワックスの掃除で出た廃液をワックス成分と中性の水に分ける実験が行われていました。理科の実験みたいにフラスコ等の本格的な器具を用いて体験でき、子どもたちも「すごい!」と興奮しながら実験を楽しんでいる様子でした。

真剣な眼差しで作り方を学ぶ(写真:Ryoko Taketomi/THE STADIUM HUB)
真剣な眼差しで作り方を学ぶ(写真:Ryoko Taketomi/THE STADIUM HUB)

【コネコネせっけんでSDGs】

「台所から地球温暖化ストップ」をテーマに、使用済みのてんぷら油(食用油)を回収してせっけん等をつくる事業を行なっている団体の『かわさきかえるプロジェクト』も出展していました。手の力が弱い子どもでも成形しやすいコネコネせっけんを用いた遊びを交えながら、せっけんを通じた地球に優しい暮らしの提案について紹介していました。このブースにも多くの子どもたちが参加し、思い思いの形のせっけんをつくっていましたが、子どもたちに負けないくらいの熱意でスタジアム型のせっけんを作っていた御仁もいらっしゃいました。また、参加者には川崎市の給食廃食油で作ったリサイクルせっけん『きなりっこ』もプレゼントされていました。このようなご時世でせっけんを使う頻度が多くなったからこそ、より環境に配慮したせっけんを選ぶことの大切さを学びました。

(写真:Naoki Tsukushi/THE STADIUM HUB)
(写真:Naoki Tsukushi/THE STADIUM HUB)
石鹸で作ったのは、もちろんスタジアムである(写真:Ryoko Taketomi/THE STADIUM HUB)
"石鹸で作ったのは、もちろんスタジアムである(写真:Ryoko Taketomi/THE STADIUM HUB)

【簡単な燃料電池を体験しよう】

鉛筆を使って新しい電池「燃料電池」の仕組みを体験してもらうコーナーや、手回し発電機を使って「白熱電球」「蛍光灯」「LED電球」を点灯させる体験で消費電力の違いを実感してもらうコーナーも設置されていました。燃料電池の仕組み等が描かれたプリントを見ながら実験に参加することで、より深く電気について学ぶことができます。ブースの入り口では手回し発電機のハンドルを力いっぱい回している子どもが多くおり、このブースの担当者の方は「多くの電気を使おうと思ったらこんなにもつくるのが大変なのかと体感してもらえると同時に、節電の大切さも学んでもらえるのではないかと思います」とお話しされていました。

(写真:Naoki Tsukushi/THE STADIUM HUB)
(写真:Naoki Tsukushi/THE STADIUM HUB)

【古新聞紙でバッグづくり】

ここ数年で多くの人が持ち歩くようになったエコバッグですが、ここのブースでは古新聞紙を使った簡単なバッグの作り方が紹介されていました。実際に筆者がバッグを手に持ってみると、思っていた以上にしっかりとした強度があり、携帯等を入れても安定していました。また、自分の好きな新聞紙の図面を選ぶことでオリジナリティが出せるのも魅力で、どの新聞紙を選ぶか楽しんでいる参加者も多かったようです。

(写真:Ryoko Taketomi/THE STADIUM HUB)
(写真:Ryoko Taketomi/THE STADIUM HUB)

取材中、会場内を楽しそうに歩いていたコンサドーレ札幌サポーターの石元さんご一家にお話を聞くことができました。まだお子さんが小さく、参加できるワークショップがあまりなかったとのことでしたが、鉋(かんな)くずを材料としたアートを体験できるコーナー等に興味を示し、「札幌のホームゲームでもSDGsを題材としたイベントがあったら参加してみたいです」と話してくれました。

素敵な時間を過ごしていた石元さんご一家(写真:Ryoko Taketomi/THE STADIUM HUB)
素敵な時間を過ごしていた石元さんご一家(写真:Ryoko Taketomi/THE STADIUM HUB)

最後に、今回のイベントを仕掛けた川崎フロンターレの管理部 企画担当シニアマネージャー、井川宜之氏に大盛況となった『かわさきSDGsランド』を総括してもらいました。

「川崎フロンターレはずっと「FOOTBALL TOGETHER」の合言葉のもと、「スポーツで人を、この街を、もっと笑顔に」をミッションとして、川崎市やファン・サポーター、地域・パートナー企業をはじめとした数多くの皆さんと一緒にサッカーの試合以外でも多くの活動を行ってきました。その活動の歴史はSDGsと密接に関わっていましたので、今回『第1回かわさきSDGsランド』と銘打ったイベントを開催した意義と狙いは、多くの皆さんにもはや実は「川崎フロンターレの存在自体がSDGsであること」を面白く体験いただくこと、そして、このイベントを通じて多くの皆さんに「ご自身でも気軽に楽しくSDGsに参加できるんだ、個人でも家族でもこれからSDGsとなることに取り組んでいこう」と実行いただける方を1人でも増やすことでした。

そのためには、このイベントに多くの人に興味を持っていただき集っていただくことが肝要ですが、SDGsの文脈だけだとどうしても堅苦しく、「面白そう」「行ってみよう」と興味を持っていただくことが難しいですし、特に今回は第一回目の開催ということもあり、最初が肝心だと思っていましたので、大人気テレビ番組『水曜どうでしょう』さんに多大なるご協力をいただき、そして川崎市の多くの団体の皆さんのご協力で、面白く温かいフロンターレらしいイベントが開催できたのではと考えてます。

(試合キックオフの5時間30分前という)かなり早い時間からのイベント開始で来場していただけるか、少し不安もあったのですが、早い時間からでも参加してみたいと思っていただけるような、特に『水曜どうでしょう』さんのご協力のもと、目玉コンテンツを用意できていましたので、結果的に多くの方に早い時間からご来場いただけて、数多くのSDGsブースを楽しんでいただけていたのは本当に嬉しかったですし、告知も含め戦略的にしっかり準備しておいて良かったと思いました。

今後の展開ですが、実は今回の第1回が終わった瞬間からフロンターレのクラブスタッフにも、「こんなに大盛況で、来年(第2回)どうするの?期待してるよ(笑)」と言われており、すでに来年の準備、ご協力いただきたい方に相談始めてます(笑)

その企画が実現するかどうかは別として、この『かわさきSDGsランド』が「SDGsって難しく考えなくても、簡単に楽しく、個人でも団体でも出来ることたくさんあるんだな。やってみよう!」と多くの方に思っていただけるきっかけ作りのイベントとなり、結果、川崎市のSDGsをどんどん推進していけるとするなら、そこに川崎フロンターレの社会的な存在価値はあるので、そうなるような第2回、第3回を開催できるといいなと思います。ただ、それって地域プロスポーツクラブの役割として当たり前のことだと思います。地域プロスポーツクラブは、地域の役に立つためにその地域に存在するのであって、競技だけやっていれば良いわけではありません。地域名をクラブの名前の冠にいただいているわけですから」

筆者も様々なブースをまわった中で、私たちの生活に身近な材料(古新聞紙等)を題材とし、子どもでも楽しくSDGsについて回れるようなワークショップが多い印象でした。今の子どもたちは小・中学校教育でもSDGsについて学ぶ機会が多いからこそ、このようなイベントも楽しんで参加しているのではないかと感じました。今後もこのようなイベントを継続していくことがSDGsの認知や理解度をより高めるために重要なのではないかと考えます。

スタジアム内でもSDGsの取り組みを紹介(写真:Naoki Tsukushi/THE STADIUM HUB)
スタジアム内でもSDGsの取り組みを紹介(写真:Naoki Tsukushi/THE STADIUM HUB)
(写真:Ryoko Taketomi/THE STADIUM HUB)
(写真:Ryoko Taketomi/THE STADIUM HUB)

編集後記:笑顔いっぱいの会場を見渡し、今回のイベントは次世代を担う子供たちに対し、私たちの住む社会や世界を楽しく変えるという新たな方向性を示すことができたのではないかと思いつつ、実際には大人にとっても非常に楽しい空間だったことを付け加えておきます。会場にはフロンターレや川崎市の「今」だけでなく、「未来」へのビジョンが満ち溢れており、第2回以降が楽しみです。

(写真:Ryoko Taketomi/THE STADIUM HUB)
(写真:Ryoko Taketomi/THE STADIUM HUB)

<了>

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