欧州サッカー連盟(UEFA)は、加盟53ヶ国・地域のトップリーグに所属する全712クラブの2017-18シーズンの会計報告書を分析したレポート『The European Club Footballing Landscape (欧州クラブサッカー界の展望)』を発行した。
同レポートによると、UEFA加盟国のトップリーグに所属するクラブは2年連続で黒字を記録し、また、ここ10年間の欧州で最も多くのスタジアムを建設したのは、ポーランドとトルコだったとのことだ。
イスラエルのアッコ・ムニシパル・スタジアム(5,000席)からモスクワのルジニキ・スタジアム(収容人数81,000人)まで、2010~2019年の10年間で建設された収容人数5,000人以上の屋外スタジアムを対象とした詳しい調査を実施しており、欧州圏内のスタジアム建設の傾向についても詳しく分析している。
レポートでは、欧州圏内ではここ10年間で43ヶ国の243のスタジアム事業が実施されており、そのうちの48%が新設、38%が既存施設の改修、そして14%が建て替えだったと紹介。全事業のうち、45%が収容人数25,000人以上の規模だったという。
ここ10年間で建設された全スタジアムのうちの85%が、クラブチームや国代表チームがアンカーテナント(主要テナント)として本拠地利用しており、また、大規模スポーツ大会開催のために整備されたものだった。さらに、2020年末までに少なくとも20ヶ所のスタジアムが完成する予定で、UEFAはスタジアム建設が欧州サッカー界において「常態化している」と結論付けた。
調査対象となった直近10年間で、国内で20ヶ所以上のスタジアム事業が実施された国はトルコとポーランドだけで、特にポーランドでは、ウクライナと共催した2012年UEFA欧州選手権(EURO 2012)に向けた会場整備事業として多くのスタジアムが建設・改修された。
トルコの場合は対照的に、2016年あたりからスタジアム整備の流れが活発化している。期間中の国別スタジアム事業の総収容人数では、2018年のFIFAワールドカップ・ロシア大会のために多くのスタジアムを新設したロシアが、合計収容人数70万人強で1位となった。
UEFA加盟国のうち、7ヶ国で新たなナショナルスタジアムが建設され、そのうちの4ヶ国はロシアやポーランドのように、サッカーの主要国際大会開催を目的とした整備であった。ただ、UEFAはレポートの中で、欧州のサッカークラブの多くがスタジアムを所有しておらず、クラブによるスタジアム所有はいまだに例外的な事例といえると示唆している。
レポートでは、UEFA加盟諸国のトップリーグクラブのうち、本拠地スタジアムを直接的に所有しているのは12%のみで、年次会計報告書にスタジアムが資産として計上されているケースも18%だけだと指摘。
UEFA加盟国のトップリーグで、スタジアムをクラブの資産として年次会計報告書に記載しているクラブが半数以上を占めるのは、イングランドのプレミアリーグ(20クラブ中15クラブ)、ドイツのブンデスリーガ(18クラブ中11クラブ)、北アイルランドのNIFLプレミアシップ(12クラブ中6クラブ)、スコットランドのスコティッシュ・プレミアシップ(12クラブ中10クラブ)、そしてスペインのラ・リーガ(20クラブ中15クラブ)の5ヶ国だけだった。
UEFAの上位20リーグ以外では、397クラブのうち、僅か38クラブのみが本拠地スタジアムを資産として記載していた。また、スタジアムを所有するトップリーグクラブが皆無の国も16ヶ国あった。
2018年のチケット収入については、UEFAの上位14ヶ国のトップリーグはすべて増収増益を記録し、欧州サッカー界全体のチケット収入総額も前年度比で8%増になった。なお、2018年のチケット収入部門最高額はイングランドのプレミアリーグの7億2300万ユーロ(約871億円)で、€(ユーロ)単位では前年比4%増、£(ポンド)単位では前年比8%増だった。
スコットランドでは、2014-15シーズンから3シーズンにわたってチャンピオンシップ(2部)でプレーしていた首都エディンバラの人気クラブ、ハイバーニアンFCが2017-18シーズンに1部に復帰したことで、2018年のチケット収入総額は前年比の19%増を記録。
これはスコティッシュ・プレミアシップの全クラブ合計の総収入額の43%を占めた。対照的に、デンマークのスーペルリーガとロシア・プレミアリーグでは、チケット収入は総収入の7%を構成するのみとなった。
スペイン、イタリア、フランス、トルコ、ポルトガル、ロシア、ギリシャ、デンマークの8ヶ国のトップリーグではチケット収入が前年比で2桁増となり、特にトルコでは52%増という成長率を記録した。
このトルコのスュペル・リグの驚異的な数字ついてUEFAは、人気クラブのイスタンブール・バシャクシェヒルFKのチケット収入が前年比158%増と大幅に伸びたこと、そして昇格や降格のドラマで観客動員が伸びたことが大きな要因だとしている。
また、イタリアのセリエAのチケット収入額は前年比24%増で、主にACミラン(120%増)、ASローマ(44%増)、インテル・ミラノ(30%増)といったビッグクラブの躍進が貢献したとしている。
UEFAは、ここ10年間の欧州全体の経済状況にもかかわらず、加盟国のサッカークラブの収益率は一般的には上がっているとしつつも、世界的な金融危機の影響を受けた2008~2014年の7年間はチケット収入が減少したと指摘。
その後の4シーズンは毎年前年比6%増を記録したことで、やや持ち直した部分はあるものの、2008~2018年の10年間においては、クラブの総収入におけるチケット収入部門の割合は2008年の21%から2018年の15%に減少していることが確認できると結論付けている。
2017-18シーズンの全クラブの純利益総額は1億4000万ユーロ(約168億円)で、初めて純利益総額で黒字を記録した2016-17年の6億1500万ユーロ(約741億円)に続き、2年連続の黒字報告となった。UEFAは、この点について、ファイナンシャル・フェアプレー(FFP)導入前の2008~2010年の3年間で合計50億ユーロ(約6,025億円)の赤字を記録した状況から大きく改善したと評価した。
合計132ページにわたる今回のレポートでは、安定した欧州サッカー界のエコシステムの中で、クラブサッカーが20年連続で増収増益を実現したこと、そして2018年には欧州のトップリーグにおける総収入額が200億ユーロ(約2兆4100億円)から210億ユーロ(約2兆5310億円)に増加したことも報告しているが、同時に、その75%(前年は69%)が5大リーグによるものだということにも触れている。
特筆すべきは、イングランドのプレミアリーグの20クラブの総収入額54億ユーロ(約6,508億円)が、4大リーグ(イングランド、ドイツ、スペイン、イタリア)より下の50ヶ国のトップリーグの617クラブの総収入額を上回っていることだろう。
2位のブンデスリーガ(ドイツ)の18クラブの総収入額が32億ユーロ(約3,856億円)、3位のラ・リーガ(スペイン)の20クラブが31億ユーロ(約3,736億円)、4位のセリエA(イタリア)の20クラブが23億ユーロ(約2,772億円)、そして5位のリーグ・アン(フランス)の20クラブが17億ドル(約2,049億円)であることからも、プレミアリーグの市場価値がいかに突出しているかは明白だ。
UEFAは他にも、2018-19シーズンの欧州トップリーグの総観客動員数が、リーグ平均で史上最多となる1億500万人に達したことにも言及し、スタジアムインフラの向上が観客動員数の増加、そしてチケット収入の8%増に繋がったとした。
UEFAのアレクサンデル・チェフェリン会長は、レポートの序文で次のように述べている。
「財務実績が改善されたことで、経営が大きく安定してきたクラブも増えました。10年間でクラブの総資産額が20億ユーロ(約2,410億円)から90億ユーロ(1兆846億円)まで増えたことからも、UEFAのFFP規則が欧州サッカー界のエコシステムの安定化と持続的かつ賢明な投資活動に大きく貢献していることは一目瞭然です。
本レポートでは、グローバリゼーションに起因する収益格差の広がり、人々の分裂を煽るようなメディアの現状、そして移籍金による収入への過剰依存など、欧州サッカー界の継続した安定と成長を脅かすいくつかの課題についても言及しています。
同時に、本レポートでは欧州のクラブサッカーがいかに強靭で回復力があり、そして一致団結しているかということにも光を当てているように、数年前の厳しい経済状況から立ち直ったように、欧州サッカー界は多くの難題を乗り越え、今後も成功していくものと信じています」
※金額はすべて2020年1月下旬で換算
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元記事 - POLAND AND TURKEY LEAD THE WAY IN EUROPEAN FOOTBALL STADIA DEVELOPMENT
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