スタジアムやアリーナといった大型スポーツ施設の建設プロジェクトで、事業収益よりもデザイン性を重視したが故に工期の遅延が発生したり、完成後に運営上の問題にぶち当たるケースは枚挙に暇がない。
だが、アメリカのウィスコンシン州ミルウォーキーに2018年8月に開場したファイサーブ･フォーラムは、予定より1ヶ月も早く竣工した。総工費は、予算を1100万米ドル(約11億8700万円)ほど下回る5億2400万米ドル(約565億5000万円)だった。北米プロバスケットボーリーグ(NBA)のミルウォーキー･バックスや大学バスケを中心とした興行は大盛況で、VIPボックス席の売上も順調だ。
ファイサーブ･フォーラムのジェネラル・マネージャー、ラジ・サハ氏はTheStadiumBusiness.comに対し、成功の秘訣は、2014年にオーナーが変わったバックスの新たな方針を出資者に納得してもらうため、責任の所在の明確化を実行したことにあるとしたうえで、次のように話した。
「成功の一番の秘訣は、私たちが事業計画について事前にしっかりと理解・合意していたことです。新アリーナではNBA公式戦を年間43試合、大学バスケの公式戦を18～20試合、他のスポーツ大会を10回、そして音楽コンサートを25回開催しなければならないことを理解していましたので、アリーナのデザインや設計には、事業計画全体を構成する要素として機能することが求められました。
つまり、事業計画を実現するためのデザインや設計であって、その逆はありえないのです。とはいえ、残念ながら、事業計画よりもデザイン性が重視されるスタジアムやアリーナのプロジェクトがあるのも事実です」
また、サハ氏によると、事前の通達無しに抜き打ちで現場の状況を確かめに来ることで、常に緊張感ある現場になったことも奏功したという。特に、建設や運営準備の重要な業務については、担当者個人が直接責任を持つように権限を与え、同時に責任の所在を明確化することを心掛けたという。
「組織をコンパクトに保ち、いかなる変更も内部で共有するようにしました。決定を下した後は、後戻りせずに課題を確実に解決しながら作業を前に進めていくことが重要です。
また、スタジアムやアリーナの建設では、将来的に予測される課題に耐えうる強度を持つ施設を建てる必要性があり、最初に承認された設計や設備でも、将来的に解決不能な大きな問題を抱えると認識した時点で設置案を却下・廃止し、先に進むべきです」
ファイサーブ･フォーラムの建設プロジェクトが進む中、VIPボックスの部屋数を減らすことが決まったが、結果的に希少価値が高まり、売り切れる頻度は高まったという。
「私たちが目指すのは、イベント興行時は毎晩、満員のお客様で盛り上がるアリーナです。お客様が絶対に見逃したくないと感じる希少価値(FOMO＝Fear Of Missing Out)を売る必要があるのです」
ファイサーブ･フォーラムを運営するミルウォーキー･バックスは、アリーナ従業員の60%を雇用率の低い地域に住む応募者から選び、さらに給与はアメリカ合衆国が定める最低賃金の倍以上の時給15米ドル(約1,620円)とすることを決めた。この決定により、ミルウォーキー市内の他のイベント施設も賃上げを余儀なくされ、結果的に、接客スタッフの時給15米ドルという賃金水準は一般的な認識となり、以前は雇用率が低かった地域の住民の生活水準は大幅に改善されたという。
また、ファイサーブ･フォーラムの従業員は、来場客向けの新サービスやプロモーションのアイディアを積極的に提案するよう求められ、例えば、バックスの試合後に従業員がすべての来場客とハイタッチをする「ハイファイブ・ライン」などは、成功例のひとつとして大きな話題となった。サハ氏は、スポーツチームやアリーナが地域に与える好影響について次のように話した。
「私たちはよく、自分たちが地域コミュニティの世話人の役目を担っているという話をします。バックスというのは、単に勝率やチケット販売といった面だけでなく、ミルウォーキー市全体にどのようなインパクトを与 えることができるのか常に問われている存在なのです。そうやって地域との繋がりを重要視してきたからこそ、2020年度の民主党全国大会開催という素晴らしいリターンに恵まれたのだと考えています」
※金額はすべて2019年9月下旬で換算
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元記事 - FISERV FORUM GM LIFTS LID ON DELIVERING UNDER-BUDGET FISERV FORUM
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